研究課題/領域番号 |
24390391
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
松永 達雄 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), その他部局等, その他 (90245580)
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研究分担者 |
務台 英樹 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), その他部局等, 研究員 (60415891)
宮 冬樹 独立行政法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (50415311)
工藤 純 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (80178003)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 遺伝子 / 医療・福祉 / ゲノム / 脳神経疾患 / バイオテクノロジー |
研究概要 |
Auditory Neuropathy(AN)は新しい難聴の疾患概念であり、遺伝的原因としてOTOF遺伝子変異が知られているが、原因不明の患者も多い。本研究ではANの新たな原因遺伝子および従来の解析方法では同定できない変異の解明を目指した。 OTOF遺伝子解析で変異を認めなかった原因不明のANの10家系で、次世代シークエンサーによるエクソーム解析を行った。この結果、成人発症の劣性遺伝の1症例では4つの候補遺伝子が同定された。先天性、劣性遺伝の1症例では2つの候補遺伝子が同定された。現在、原因を確定するために他のAN家系での検索を進めている。生後早期の発症で視神経萎縮を伴う孤発例の1症例ではOPA1遺伝子のミスセンス変異が同定された。OPA1遺伝子は優性遺伝の既知AN遺伝子であるが、本家系の両親には症状がないため、新生突然変異の可能性が高いと考えられた。 OTOF遺伝子は劣性遺伝子なので変異が1アレルのみ同定されてもANの原因とはいえない。この場合は、サンガー法シークエンスでは発見できない大きな欠失あるいは挿入が他の1アレルに存在する可能性がある。本研究では、このようなANの4家系でSNPアレイを用いて大きな欠失あるいは挿入について探索した。この結果、各検体で9-13ヶ所に大欠失の候補部位が同定されたため、Real time PCRによる測定系を確立して解析を開始した。 従来、難聴の遺伝的原因の探索には、連鎖解析が可能な大家系の場合を除くと、候補遺伝子のサンガー法シークエンス以外の方法がなかった。しかし、本研究で小家系でもSNPアレイやエクソーム解析などの網羅的解析で遺伝的原因を解明できる可能性が示された。これは、新規難聴遺伝子の発見と有効性の高い遺伝子診断にもつながる重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた原因不明のANの14家系についての解析体制が整い、次世代シークエンサーを用いたエクソーム解析が10家系で実施された。この中の2家系において、新規原因遺伝子の候補が4遺伝子および2遺伝子に絞り込まれ、1家系においてはOTOF遺伝子以外の既知のAN原因遺伝子が同定された。残り4家系(OTOF遺伝子変異を1アレルだけに認めた家系)においても、SNPアレイを用いた解析で、大欠失の候補部位が絞り込まれ、Real time PCR法を用いた検証のための測定系も確立した。このように、従来のサンガー法シークエンス解析では解明できなかったANの遺伝的原因の解明が、新技術の活用で順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
NGS解析で同定された複数の新規AN原因遺伝子候補に対して、サンガー法シークエンス、Polyphen2などのソフトによる機能への影響、アミノ酸配列の動物種差を越えた保存性、タンパク構造ドメインとの位置関係、コンピュータによる立体構造予測、公開されている日本人の正常者DNA(エクソーム)配列データベースと比較検討による検証を行う。家系内の他のメンバーからの検体が得られた場合には遺伝型と表現型の整合性の検討を行なう。遺伝子の機能、発現を文献検索して、ANの原因遺伝子としての検討を行なう。以上より絞り込まれた原因遺伝子について、今回の検討対象に含まれなかった他のAN症例で、同じ遺伝子に変異がないかを確認し、臨床像を調べる。これらの結果から、各変異の原因としての頻度と臨床的特徴を明らかにする。 直接シークエンス法で1アレルのみOTOF遺伝子変異が同定されたANの4家系に対しては、25年度に引き続き大欠失の有無をReal time PCR解析で検討する。これと並行して、Otoferlin蛋白質と複合体を形成して働くSNAP25、Syntaxin-1、Synaptobrevinの3遺伝子の変異の有無を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
SNPアレイ解析でOTOF遺伝子の大欠失が疑われた部位が予想以上に多かった。そして、解析結果を正確に判定するためには各検体ごとに全部位を同時に解析する必要があるため、全部位のプライマーがそろうまで、解析を開始できなかった。それぞれの疑い部位(エクソン)に対してReal time PCRによる解析用のプローブをデザイン、作成、試用して、解析に不適切なプローブが見つかった時は再度デザイン、作成して、全ての疑い部位に適正に働くプライマーを準備した。これらの作業は費用はかからないが時間がかかった。このため、次年度使用額(158954円)が発生した。 費用はかからないが時間のかかるReal time PCRプライマー作成のステップは終了したので、これから行うReal time PCR解析に次年度使用額を利用できる。これで、大欠失が発見されない場合は、他の遺伝子変異が原因の可能性があるため、他のAN症例と同様にエクソーム解析を実施するために使用する。
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