研究概要 |
侵襲性レンサ球菌感染症の発症は急速に進行するが,抗菌治療後にヒト組織が受ける侵襲は直ちに停止しない.そのため,組織に与えられる傷害は除菌後も継続して起こり,回復困難になる場合が多い.この要因は細菌感染を引き金として起こる内因性傷害であると考えられる.内因性傷害として感染時の補体カスケードの破綻に着目し,A群レンサ球菌について解析を行った. まず,補体カスケード制御因子群の精製標品とA群レンサ球菌の培養上清を反応させたところ,C1 インヒビターの分解が認められた.分解活性を担う培養上清中の因子を検索した結果,システインプロテアーゼSpeBであることが明らかになった.C1インヒビター分解産物のN末端側アミノ酸配列をエドマン分解法により解読し,複数の分解部位を同定した. 次に,野生株SpeB変異株をヒト血清中で培養した結果,野生株と比較して,SpeB変異株の生存率は低下した.走査型電子顕微鏡を用いた菌体の観察から,SpeB変異株の異常な細胞形態が認められた.SpeBが補体因子へ作用するかを検討するため,組換えSpeBと補体因子群の精製標品を反応させたところ,SpeBによる補体因子群と補体膜侵襲複合体の分解が認められた.また,血清と共に培養した野生株とSpeB変異株への補体沈着をフローサイトメトリー解析により検討した.その結果,C9の沈着がSpeB変異株でより顕著に認められた. 以上の結果から,SpeBによるClインヒビターと補体群の分解が補体カスケードの破綻を誘導し,A群レンサ球菌の補体免疫回避および除菌後の内因性傷害を惹き起こすと推察された.
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次年度の研究費の使用計画 |
動物実験を実施予定であるため,実験動物費を申請する(ディスポーザブル飼育ケージ代も含む).実験機器は購入せず,動物実験で得られた試料を解析するための試薬およびプラスチック器具を購入する計画である.また,最終的な実験成果を発表するために,国内および国際学会への参加旅費を計上する.そして,全研究成果を英文の学術雑誌へ投稿するために,英語論文の英文校正費と校正者との通信連絡費,および印刷費を計上する.
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