研究課題
(1)野生型マウスを老齢まで飼育すると約半数のマウスが膝関節に自然発症的に変形性関節症様の変化を来すが、軟骨特異的CCN2過剰発現トランスジェニック(TG)マウスを同様に長期間飼育しても上記の変形性関節症様の変化が全く認められなかった。即ち、野生型では老齢化に伴い、軟骨特有の細胞外マトリックスであるプロテオグリカンとII型コラーゲン量の減少と変形性関節症で発現するI型およびX型コラーゲン、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-13の出現が見られたのに対し、CCN2過剰発現TGマウスではこのような退行性の変化は全く見られず若々しい軟骨が維持できていた。(2)CCN2に加えてCCN1/Cyr61のmRNAレベルもそのmRNAの3’-非翻訳領域で制御を受けることを見いだした。(3)CCN2の4つのモジュールのリコンビナントタンパク質をそれぞれ別個に調製して、それらを単に混合した状態での軟骨再生作用を、in vitroで調べると、全長CCN2の作用が再現できた。また、IGFBPおよびTSPモジュールは単独で全長CCN2とin vitroで同程度の作用があることが判明した。この2つのモジュールの内、TSPモジュールはゼラチンハイドロジェルに結合したのでこれを徐放材としてin vivoでの軟骨再生効果を調べたところ、全長CCN2より強い効果が見られた。本成果は平成25年度研究実施計画(5)の「特定の効果を増幅したCCN誘導体の設計」に相当する。(4)CCN2ノックアウトマウスのメタボローム解析を行い、ATP量が低下していることを見いだした。(5)低出力性超音波(LIPUS)が軟骨細胞におけるCCN2発現とアグリカンおよびII型コラーゲンの発現を更新することを見いだした。(6)CCN3過剰発現トランスジェニックマウスの作成に成功し、骨形成が低下することを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
CCNファミリータンパク質が単なる“シグナルコンダクター”という概念に留まらない、細胞外マトリックスを含めた細胞外微小環境全体を調整する“マスターマインド”ともいうべき新概念の因子であることを、H25年度は軟骨特異的CCN2過剰発現トランスジェニックマウスを老齢化するまで長期間飼育することにより明らかにした。即ち、野生型でみられる老齢化に伴う関節軟骨における軟骨特異的細胞外マトリックスであるプロテオグリカンとII型コラーゲン量の減少とI型およびX型コラーゲン、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-13の出現という微小環境のアンバランスが、老齢化によるCCN2の発現の低下を防ぐことにより正常に整えられ、その結果アンチエイジング効果が見られることを明らかにした。まさしく、この作用は“マスターマインド”としての作用と言える。なお、CCN2の“マスターマインド”としての多彩な作用はATP産生の低下が一因である可能性を示唆した。また、骨格系組織再生医療への応用については、動物の関節軟骨に外科的処置により軟骨損傷を作成し、各個別モジュールの作用を検討したところ、TSPモジュールがゼラチンハイドロジェルを徐放材として用いた場合in vivoでの軟骨再生効果を発揮することを見いだし、その作用が全長CCN2よりも強力であったことから、CCN2の効果を増幅したCCN2誘導体を作成出来たことになり、大きな進展があった。CCN2の発現を外から非侵襲性に促進する手段としてLIPUSを見いだし、臨床応用への可能性を強く示唆した。他のCCNファミリーメンバーについては、昨年度はCCN2に加えCCN3の作用を報告したが、本年度は線維化に関係するとされるCCN1/Cry61の遺伝子発現制御機構の一端を明らかにし、線維症等軟組織難病治療への応用の道筋の一つをつけることができた。
研究実績の概要に記載した(4)~(6)の成果を早急に論文として発表する。次いで、研究計画調書に記載の平成26年度研究実施計画に基づいて研究を推進する。
本研究課題の重要な部分を占める骨格系組織再生医療へのCCNファミリー分子の応用に携わっていた大学院生がH25年度後半から学位論文等複数の論文執筆のため、実験がほとんど出来なくなった。これは想定外のことであったが、この大学院生は大変優秀で、完成間近の本研究課題に関連したテーマを2つ抱えており、H26年度も研究を続行し、書きかけの論文を仕上げることが出来れば大きな成果を挙げることが期待できる。そこで、執筆活動に時間が取られ実験が出来なくなった分余った費用をH26年度に回して、同大学院生を非常勤研究員として雇用し、一気に2つの論文を仕上げたい。上記の大学院生が博士の学位を取得し終わったので、非常勤研究員として雇用するのに使用する。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 11件) 学会発表 (44件) (うち招待講演 11件) 備考 (1件)
Bone
巻: 59 ページ: 180-8
10.1016/j.bone.2013.11.010.
Toxicol Lett.
巻: 224(2) ページ: 196-200
10.1016/j.toxlet.2013.10.020.
Anticancer Res
巻: 34(2) ページ: 671-7
J Cell Commun Signal
巻: 8(1) ページ: 71-6
10.1007/s12079-014-0227-9.
J Cell Biochem
巻: 114(9) ページ: 2094-100
10.1002/jcb.24556.
巻: 7(3) ページ: 191-201
10.1007/s12079-013-0204-8.
巻: 7(3) ページ: 207-17
10.1007/s12079-013-0202-x.
PLoS One
巻: 8(8) ページ: e71156
10.1371/journal.pone.0071156.
J Biol Chem
巻: 288 ページ: 35138-48
10.1074/jbc.M113.486795.
巻: 8(12) ページ: e83545
10.1371/journal.pone.0083545.
Biomolecular Concept (invited review)
巻: 4 ページ: 477-494
10.1515/bmc-2013-0018
http://www.okayama-u.ac.jp/user/seika/