研究概要 |
顎関節症に伴う慢性筋痛の多くは索状硬結の存在を特徴とするが,その発症メカニズムは不明であり,治療法も未だ確立されていない.近年,筋組織の治癒過程におけるマクロファージ(Mφ)の重要性が報告されている.そこで,慢性筋痛の新規治療開発を目的として,マウス咬筋部の疲労回復,および治癒過程におけるMφの役割と賦活化のメカニズムについて明らかとする.マウス(Balb/cマウス,オス,5週齢)を用い,その咬筋部に咀嚼様運動に伴う筋疲労を誘導し,組織内における貧食性マクロファージの動態について検討する.その後,マクロファージ欠損により,筋疲労の回復遅延が生じることを明らかとする リボゾーム封入クロドロネート(Clo-Lip)の静脈内投与(0.2ml/mouse)により24時間~4日目まで組織内のMφが枯渇する.clo-Lip投与による強制歩行時の運動持続量が有意な減少が示され,主要な筋組織由来サイトカインであるIL-1βの発現量の低下についても示された.以上の前年度の結果から,次にマウスの咀嚼様運動における動態について検討を行った.マウスを円筒形の筒に閉じ込め,目の前にプラスチック板を装着すると,自発的な咀嚼様運動が観察される.このプラスチック板の減少量を咀嚼活動量として測定を行った.結果,Clo-Lip投与マウスにおける咀嚼運動量の有意な減少が示された.ここで,エバンスブルーを用いた血管浸透性による筋組織の血管浸透性について検討を行ったが,有意な差は認められなかった. Mφの機能的役割として,IL-1発現を介するIL-6の誘導,それに伴う筋活動の維持が推察される.本年度の結果は,Mφの筋機能維持における機能的役割を示す所見であり,軽度な筋組織外傷といえる咀嚼様運動に伴う筋疲労時に,疲労回復過程においてMφが必須な存在であることを示すものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Mφ枯渇による筋活動の抑制効果については,一般的な運動の実験モデルである強制歩行のみならず、咀嚼運動においても同様であることが明らかとなった.このことは,我々の仮説を立証するうえで非常に有用な結果が出たものと考えられる.すなわち,Mφ枯渇によって,運動時の筋組織内におけるIL-1β産生が障害され,結果としてその経時的な筋活動量の減少を促し,その疲労耐性を低下させることが推察された.今後の我々の研究計画を進める上で,重要な指針を与える結果が本年度は得られたことを示している.
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今後の研究の推進方策 |
今後,IL-1によって誘導されるIL-6の発現についても検討を行い、更なるメカニズムの解明を行っていく.また,FACSなどを用いて、運動時の筋組織内におけるMφの特徴および特性、その動態についても解析を行い,本研究の目的である,筋障害から回復する上で有効な活用法についても検討を行う予定である.
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