最終年度である平成26年度は、前年度までに得られた、水素量低減DLCコーティングチタンが、マウス破骨細胞様細胞株であるRAW264.7細胞およびマウス骨芽細胞様細胞株であるMC3T3-E1細胞の分化に与える影響について、さらなる詳細な検討を行った。 水素量低減DLCコーティングチタン上にてMC3T3-E1細胞を培養後、骨芽細胞分化マーカーの遺伝子発現について解析を行った結果、いずれの遺伝子も特定の水素量において発現量が上昇することがわかった。また、水素量低減DLCコーティングチタン上にて、可溶性RANKL存在下でRAW264.7細胞を培養したところ、特定の水素量において、破骨細胞分化に必須のマスターレギュレーターであるNFATc1および破骨細胞分化マーカーのタンパク発現が顕著に抑制されることが明らかとなった。さらに、オッセオインテグレーション(骨結合)の獲得にはチタン表面性状が関与していると言われているため、水素量低減DLCコーティングチタンの表面粗さおよび濡れ性を検討した。その結果、これらに関して未処理の純チタンと水素量低減DLCコーティングチタンとの間で大きな差は認められなかった。つまり、細胞の分化に対する水素量低減DLCコーティングチタンの影響について、表面粗さおよび濡れ性に関する表面性状の影響はないと考えられた。 以上のことから、特定の水素量低減DLCコーティングチタンは骨芽細胞分化を正に、破骨細胞分化を負に制御し骨リモデリングに十分配慮することで、インプラント治療の長期的な成功のための有用な材料になり得ることが示唆された。
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