研究課題/領域番号 |
24390453
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
由良 義明 大阪大学, 歯学研究科(研究院), 教授 (00136277)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腫瘍融解性ウイルス療法 / 変異型ヘルペスウイルス 1型 / 扁平上皮癌 / 腫瘍免疫 / immunogenic cel death |
研究実績の概要 |
腫瘍融解性ウイルス療法は複製可能型ウイルスを癌細胞に感染させ、細胞変性効果で腫瘍を破壊する治療法である。これまでに神経毒性遺伝子を欠失しヒト口腔扁平上皮癌 (SCC)で細胞融合を形成する変異型単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)RH2を作製し、ヒトSCCならびにマウスSCC細胞を用いて腫瘍融解作用による抗腫瘍効果を確認した。次に近交系C3Hマウスの両側背部皮下に同系の扁平上皮癌細胞SCCVII細胞を接種して腫瘍を形成し、片側にRH2を投与すると反対側腫瘍の増大も抑制されること、RH2を腫瘍内に投与したマウスの脾臓リンパ球がSCCVII細胞に細胞傷害性を示しことから、RH2には直接的な腫瘍融解だけでなく、腫瘍免疫を増強する作用も持つことを明らかにした。腫瘍免疫に関しては、免疫原性細胞死immunogenic cell death (ICD)が最近のトピックとなっている。これは、傷害を受けた腫瘍細胞がdamage-associated molecular patterns (DAMPs)を産生して、免疫細胞を賦活化するというものである。HSV-1RH2感染にともなうSCCVIIからのDAMPs産生について検討した結果、腫瘍内に浸潤する免疫細胞、特に樹状細胞に対してfind meシグナルとなるATPの細胞外放出がみられ、核たんぱく質のhigh mobility group box 1 (HMGB1)の放出も増加した。細胞表面でeat me シグナルとなるendoplasmic reticulum (ER)に存在するcalreticulin (CRT)も細胞膜へ移行したことから、HSV-1RH2によるDAMPsの産生が確認された。さらに感染細胞の培養上清を腫瘍内に投与することで、ウイルスと同様に腫瘍増殖を抑制することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年、癌ペプチドワクチンを用いた臨床研究が報告されているが、その効果は限定的である。口腔癌病巣にHSV-1RH2を投与することで直接的な腫瘍の融解と腫瘍免疫の増強を図りたいと考える。化学療法でICDの概念が提示され、ウイルス療法にも当てはまる例が報告されたことを踏まえて、昨年度はHSV-1でのDAMPsの誘導について検討を行った。その結果、これまで培養系で証明されていなかった口腔癌に対する腫瘍融解性ウイルス療法の腫瘍免疫の活性化にこのICDが関与することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
HSV-1RH2を用いた本研究でも、ICDが確認された。ここでは、すでに報告されているATP、HMGB1、CRT, HSP70、HSP90を検出したが、まだ知られていない分子がDAMPsとして働いている可能性がある。そこで、非感染細胞の上清とHSV-1RH2を感染しDAMPsを誘導する条件下で回収した培養上清を濃縮してプロテオミックス解析を行い、既知の分子以外にどのような分子がウイルス感染に伴って細胞外に放出されるかを調べる。次に発見した分子の腫瘍免疫増強効果について、in vitroの系でdendric cell(DC)細胞の成熟、CD4陽性細胞とDCの共培養による活性化に対する効果を検討する。さらに、この分子を特異抗体で除去することによる抗腫瘍効果への影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
腫瘍融解性HSV-1RH2感染によって、ICDを誘導するDAMPsの産生が確認されたため、それら既知のDAMPsのウイルス感染細胞上清に産生される割合を明らかにするとともに、新規のDAMPs候補を同定するため、プロテオミックスの技術を導入した研究を進める必要性が生じ、そのための研究費を確保した。
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次年度使用額の使用計画 |
扁平上皮癌細胞にHSV-1RH2を感染し、その上清について、プロテオミックスのショットガン方式で、放出分子を同定し、非感染細胞と比較する。これをもとに、DC細胞の成熟能、サイトカイン産生能から、同定した分子のDAMPsとしての働きを明らかにする。
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