腫瘍融解性ウイルス療法は、ウイルスの細胞変性効果で腫瘍を破壊する治療法である。これまでに神経毒性遺伝子gamma34.5を欠失し細胞融合能をもつ変異型単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)RH2を作製し、ヒトならびにマウス扁平上皮癌(SCC)細胞を用いて、直接的な腫瘍抑制効果、近交系マウスでの腫瘍免疫増強効果を明らかにしてきた。腫瘍免疫に関しては、SCC細胞へのRH2感染がdamage-associated molecular patterns (DAMPs)を産生して、最近のトピックである免疫原性細胞死immunogenic cell death (ICD)を誘導することを明らかにした。最終年度では、RH2感染による細胞死におけるオートファジーの関与について検討した。RH2を感染したSCC細胞では、オートファジーに特徴的なLC3の発現、透過型電子顕微鏡でのオートファゴゾームの形成を確認した。オートファジー阻害剤である3-MA、bafilomycinA1でRH2によるSCC細胞に対する細胞傷害性が減弱することから、RH2感染によるオートファジーはautophagic cell death を誘導すると考えられた。さらに、RH2感染SCCVII細胞から腫瘍免疫を増強する因子が細胞外に放出されるとの仮説を設定し、RH2感染細胞の培養上清を回収し、含まれるウイルスを紫外線にて不活化したのち、これをマウス腫瘍に投与して、腫瘍免疫誘導能を検討した。その結果、担癌マウスの脾臓細胞から調整した樹状細胞はこの培養上清で処理すると成熟すること、成熟樹状細胞と脾臓から調整したCD4+T細胞、CD8+T細胞を共培養すると、T細胞は活性化し、SCCVII細胞に対する細胞傷害活性も増強することが分かった。さらに、この感染細胞の上清につきプロテオーム解析を行って、DAMPsの存在を明らかにした。
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