研究課題/領域番号 |
24390454
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
東川 晃一郎 広島大学, 大学病院, 講師 (80363084)
|
研究分担者 |
飛梅 圭 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 准教授 (40350037)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | EMT / 癌の浸潤・転移 |
研究概要 |
口腔扁平上皮癌の浸潤機構において、少数のEMT型癌細胞と多数の非EMT型上皮系癌細胞が共存している。昨年度までのデータでは、EMT型癌細胞は浸潤能が高く、さらに抗アポトーシス能も高いことから、浸潤を含めた癌の悪性化と進展をリードしていると考察していた。しかし、同時にEMT表現型を維持した状態だと、浸潤以降の転移の過程において最適ではないことが考えられた。つまり、EMT表現型は少なくとも浸潤の過程には必須の現象であるが、癌細胞の血管内移動や転移の過程においてEMT表現型を維持することは逆に不都合であり、それぞれの環境に適した形質を獲得することが最重要であることが考えられる。これは転移巣ではEMTが生じた細胞もMETを起こして再び上皮形質を獲得するだろうと考えられていたが、このことにも通じる事実である。 癌細胞に生じるEMTで重要なのは、EMT形質がStableの状態となることと、Metastableと呼ばれる、まだ可逆性の状態と分けて考えることが最近考慮されるようになった。我々はStableもMetastableのEMTを再現できる系を既に作成していたため、この新たな考えのもとに研究を仕切り直した。 ウイルスベクターでEMT誘導因子Snailを導入した舌癌由来癌細胞は、細胞運動スペースの確保やサイトカイン刺激によりEMT誘導率を可変させることができる、Snail依存的EMT誘導の優秀な系である。研究補助者の重石英生ら(当研究室員で英国留学中)が示した報告では、癌細胞を上皮マーカーESAと表面マーカーCD44で分画して、ESAネガティブCD44ポジティブの細胞群を分画したところ、EMT形質を示した。そこでSnail過剰発現OM-1細胞を同様にESAとCD44で分画したところ、ESAネガティブCD44ポジティブの細胞群はやはりE-カドヘリンとビメンチンでEMTと判断した細胞とほぼ一致する考えられる結果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
共同研究者の鎌田伸之が死亡したため、研究の進展が遅れているのと、癌の浸潤・転移におけるEMTの役割の考え方が大きく変貌しつつある現状のため、さらに慎重に研究を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
Snail過剰発現OM-1細胞のESAネガティブCD44ポジティブの細胞群はE-カドヘリンとビメンチンでEMTと判断した細胞とほぼ一致する考えられる結果が得られたが、この細胞にサイトカインで刺激してE-カドヘリンとビメンチンで判断できるEMT細胞数が大きく増えたにもかかわらず、ESAネガティブCD44ポジティブの細胞数は変化がなかった。この結果は、EMTの定義としてE-カドヘリンとビメンチンの発現でEMTと判断するのに限界が生じたためと考えている。CD44も癌幹細胞性質のマーカーとして認知され、ESAとCD44で幹性の高い細胞群が抽出できるが、癌幹細胞の定義では、癌幹細胞は少数であるという定義に当てはまらない結果がでている。よって、EMTや癌幹細胞という定義の縛りにとらわれることなく、癌の悪性化・進展にとって最も重要と考えられる癌細胞のサブポピュレーションの抽出と、そのキャラクタライぜーションをおこなっていく予定である。
|