研究実績の概要 |
<緒言>本研究では、2013年に疫学調査を実施し、東日本大震災前の2010年調査データと連結し、震災によるストレスや社会環境の変化が健康にどのような影響を与えているかを検討した。ここでは特に、口腔の健康に関して報告を行う。口腔の健康は高齢者の要介護発生や認知症発生に関連し重要であるにもかかわらず、災害後の変化についての研究は少ない。特に、我々の調べた限り、大規模災害被災者における歯の数の変化を見た研究は存在しない。そこで本研究は、被災地に住む高齢者を対象に、東日本大震災による経済的困難と歯の喪失との関連を明らかにすることを目的とした。 <方法>対象は宮城県岩沼市在住の65歳以上の全高齢者である。東日本大震災後の2013年に自記式質問票による郵送調査を行い、東日本大震災前の2010年の調査データと結合した。歯の喪失と震災による経済的困難との関連を、震災による被害、性、年齡、2010年の所得、教育歴を調整した上で、多変量ロジスティック回帰分析を用いて検討した。 <結果>2010年のベースライン調査では、5,058名から回答を得た(回収率59.0%)。自分の歯があると回答した4,243名のうち、3,098名が追跡された(追跡率73.0%)。歯の喪失および震災による経済的困難に欠損のない2,912名を解析に使用した。経済的困難のある者は680名であり、このうち11.6%に歯の喪失が見られた。一方、経済的困難のない2,232名においては7.7%に歯の喪失が見られた(p= 0.015)。共変量調整後も、震災による経済的困難がある者は歯の喪失が有意に多かった(オッズ比= 1.39, 95%信頼区間; 1.03-1.86)。 <結論>震災後の経済的困難は歯の喪失につながることが示唆された。想定されるメカニズムとしてストレスによる歯周病の悪化などが考えられる。メカニズムに応じた災害後の口腔の健康悪化を防ぐような介入が必要である。
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