研究課題/領域番号 |
24401010
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
飯塚 正人 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (90242073)
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研究分担者 |
山岸 智子 明治大学, 政治経済学部, 教授 (50272480)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / イスラーム / 民主主義 / チュニジア / イラン / エジプト / 英国 / UAE |
研究実績の概要 |
研究代表者の飯塚と分担者の山岸がチュニジア、英国、UAE、バハレーンの4か国で、チュニジアにおける「イスラーム民主主義」の実現可能性、またアラブ諸国にとって参照モデルであるイランの「イスラーム民主主義」が抱える問題点に関する共同聴き取り調査を行った。 その結果、2014年1月のチュニジア新憲法制定は、一般にはイスラーム派に対する世俗派の勝利と報じられたものの、政教分離が定められたわけではなく、イスラームを国教とし(第一条)、また国家を宗教の保護者と位置づける(第六条)など、「イスラーム民主主義」の1つのモデルとなり得ることが確認された。 他方、イランについては山岸が単独で現地調査も行ったが、シーア派を目の仇にするISが昨年初めから隣国イラクに進出し、眼前の脅威となったことで、民主的な選挙で選ばれた大統領と国民が直接選ぶことのできない最高指導者との対立は顕在化することがなかったものの、対米関係の推移によっては、大統領派(中道派+改革派)と最高指導者派(保守派)の権力闘争が激化する恐れがあり、最高指導者を国民が直接選ぶことのできないイラン型「イスラーム民主主義」と「民主主義」の間の深刻な齟齬を解消する手立てはいまだ見出されていないことを確認した。 このほか、エジプトでは飯塚が単独で聴き取り調査を行った結果、国民世論は相変わらず「イスラーム民主主義」を志向する者と反対する者とが拮抗しているものの、シーシー新大統領の誕生以前から、軍と警察による体制批判者への弾圧と報道規制が著しくエスカレートしており、「イスラーム民主主義」どころか、いまや「民主主義」そのものが危機に瀕していることが明らかとなった。とはいえ、「イスラーム民主主義」の代表的な論客であるターレク・アルビシュリーなどは現在も活発な発信を続けており、「イスラーム民主主義」の可能性がいまだ消滅してはいないことも確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内における「イスラーム民主主義」思想史の研究は順調に進展しており、チュニジア、イラン、英国、湾岸諸国はもとより、治安状況にやや不安のあったエジプトでも引き続き現地調査を行うことができた。ISの勢力伸長により中東情勢は混迷の度を深めており、リビアにおける現地調査は以前にも増して不可能な状況になっているが、本研究課題は最初からリビアでの調査ができない可能性を計算に入れて、チュニジア、エジプトを優先する計画になっており、現時点までの達成度に問題はない。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画どおり、最終年度も研究代表者と分担者が共同で「イスラーム民主主義」の実現可能性に関する現地調査を行う一方、国内では「イスラーム民主主義」の近現代思想史を構築すべく、資料の読解に基づく共同研究を進める。なお、治安の悪化により、リビアでの現地調査はもはや断念せざるを得ず、チュニジア、エジプトの治安状況にも不安が残るものの、現時点では両国の調査は可能と考えている。もっとも、治安の悪化その他の理由で、両国での調査ができなくなった場合でも、「イスラーム民主主義」思想の発信地である欧州またはアラブ諸国にとっての参照モデルであるイランでの調査は可能であり、万一の場合は、そちらにより重点を置く形で所期の目的を達成したい。
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