研究課題/領域番号 |
24401012
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研究種目 |
基盤研究(B)
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
島田 周平 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 教授 (90170943)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アフリカ農民 / 流動性 / 多様性 / 秩序 / 脆弱性 |
研究概要 |
今年度は、ナイジェリアにおいて現地調査と資料収集を実施した。現地調査は主として首都アブジャにおいて実施し、1970年来調査している中部ナイジェリアのエビラ人が結成している同郷集団(10団体)を訪問し聴き取り調査を行った。エビラ社会では2000年代に入り大きな暴動(エビラ暴動)が起きた。このエビラ暴動の背景とその原因、そして同郷集団が事態収拾あるいは沈静化に果たした役割等について聴き取りを行った。 その結果、エビラ暴動の発生原因には、政治的疎外や経済的停滞を背景とした農民達の不満増大と彼等の脆弱性増大が挙げられる。政治家は彼等の不満を吸収できないばかりか、それをむしろ政治的に利用する挙に出て、一部の若者を私兵化し事態は急速に悪化したという。この暴動に際し、宗教的指導者や伝統的支配者は以前のように調停能力を発揮できない事態となり彼等の権威は急速に低下したという。 もともと出稼ぎが盛んであったエビラ社会では、全国各地および海外に出かけている人々がこの危機的状況を憂え、一部の同郷集団が故郷の危機を救うべく「秩序」の回復に乗り出したという。それが一定の効果を生みだし、最終的には宗教的指導者や伝統的支配者が前面に復帰して暴動は収束に向かったようである。 農村社会の急速な変化が、新しい形の紛争を生み、それを沈静化するために新しい形の「秩序」確立の動きが始まったともいえる。今後は、ザンビア等での農民の生業の多様化と新しい「秩序」の在り方についても調査を実施し、農民の生業の多様化と社会の「秩序」の変化について調査していくことが必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地調査実施直前のアルジェリアでの人質殺害事件やマリ北部でのフランス軍の軍事作戦などの影響で北部ナイジェリアでは調査実施が難しい状況であった。しかしながら、現地の研究者の支援とアドバイスのお蔭で、首都アブジャにおけるエビラ人(中部ナイジェリアのコギ州が地元)のイスラーム系の同郷集団での聞き取り調査を精力的に実施することができた。また、警官同伴の現地移動となったが、エビラ社会の伝統的統治者の一人(エミールに次ぐNo.2の地位にあるシロマ)の就任式に参加することができ、参与観察と参加者の聴き取り調査を実施することができた。 治安悪化のため、当初予定していた調査村における聴き取り調査は実施できなかったが、同郷集団や伝統的支配者に対する聴き取り調査は予想以上の成果を得ることができたと考える。 またザンビアにおける調査では、調査村を訪問し来年度の現地調査の意向を伝える一方、首長省を訪問し大臣自らに面会することができ来年度の現地調査の意向を伝え了解を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今回の調査で、同郷集団が出身地域の地域紛争の緩和に一定の役割を果たしていることが明らかになった。1999年の民政移管後2006年にエビラ社会で激しい地域紛争が発生した。この時に、伝統的支配者も宗教的支配者も武装した若者集団を抑止することが出来ず、これを鎮圧するために連邦軍が派遣される事態となった。そしてこの紛争を調停するために全国各地でエビラ同郷集団が結成され、調停に一定の役割を果たしたのである。紛争のキッカケ要因は伝統的な仮面の祭りや選挙運動であったが、紛争の底流には1990年代以降のエビラ社会の大きな変容があるようである。今後は、1990年代以降の人々の生業の多様性や人々の流動性に注目してエビラ社会の変容に関する調査を継続したい。また、暴力的紛争が1999年の軍事政権の終焉を待って直ぐに起きてきた理由についても、伝統的支配者層の機能の変化や政府による地方分権化に焦点を合わせて調査を続けていきたい。 一方ザンビアでは、1991年のMMD(複数政党制民主主義)政権の成立以来進められてきた構造調整計画の影響が、生業の多様性や農民の流動性にどのような影響を与え、また伝統的首長の政治的位置づけの変化や地域分権化の動きが伝統的権力と社会の「秩序」にどのような影響をあたえているのか追究してみたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、文献調査では、ロンドン大学のMeagher博士やオックスフォード大学のアフリカ研究センターを訪問し、最新の研究課題、とりわけナイジェリアやザンビアで簇生する様々な商業組織や新興宗教の性格規定に関する最新の研究状況について詳しくインタビューし、関連資料の収集を行う。 現地調査はザンビアと可能ならばナイジェリアでも実施したい。ザンビアでは、過去に農村調査の経験のある中部州リテタ地域のC村で聴き取り調査を実施し、2000年以降の人々の空間的・社会的移動および生業の変化について聴き取り調査を行うと同時に、首長省から紹介される地方首長に面会を求め、彼等が近年直面している諸問題について詳細な聴き取り調査をおこなう。 ナイジェリアでは、今年度の現地調査で実施できなかった南部での聞き取り調査を実施したい。今年度の現地調査がイスラーム系の同郷集団からの聞き取りであったのに対し、今度はエビヤ社会のキリスト教系同郷集団の聴き取り調査を実施したい。もしもナイジェリアでの現地調査が不可能(例えばボコハラムなどによる治安悪化により)な場合、ザンビアでの現地調査の後にレソトで現地調査を実施する。
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