最終年度は、ナイジェリアにおけるボコハラムやニジェールデルタ地域の紛争が、農村社会の脆弱性増大や社会の流動性とどのような関係があるのか探るため、ボコハラムの専門家であるラルフ(Raufu)博士と南部の紛争やインフォーマルセクターの専門家であるミーガー(Meagher)博士を日本に招聘し、東京と京都で公開講演会を開催し意見を交換した。また資源をめぐる重層的関係や人々の流動性の研究で有名なジョンホプキンス大学のベリー(Berry)教授とニジェールデルタ地域の紛争研究の第一人者である米国社会科学研究評議会(SSRC)のオビ(Obi)博士を訪問し、最新の研究動向を調査すると同時に執筆中の論文に対するコメントをもらった。 3年間の研究成果としては、①1980年代の構造調整計画(SAP)の実施や1990年代末以降の政治の民主化影響が、アフリカ農村社会に大きな影響を与え、生業の多様性と人々の流動を増大させ、一部の農民たちの脆弱性を増大させていたことを、ザンビアにおける一農村での現地調査の分析から明らかにし、その成果を英文論文の形でまとめ発表した。 ②しかしながら、ナイジェリアのボコハラムの展開は予想を超えるもので、生業の多様性や社会の流動性増大による「秩序」の破壊から説明するだけでは不充分で、国際的な紛争との繋がりをも視野に入れる必要性が明らかとなり、このような視点からボコハラムの過激化の過程を分析し研究発表を行った。 ③農村社会の「秩序」と伝統的権威に関する研究では、MeagherやBerryとの研究会で、伝統的権威の低下は広く認められ紛争解決の有効な担い手ではなくなりつつあるが、今も政治家と連携して隠然たる力を発揮する場合があること、また紛争地で若者武装集団が社会の秩序の担い手とはなり得ていないなど、権威と秩序をめぐって状況が流動的になっている点も議論となった。
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