研究課題/領域番号 |
24401021
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研究機関 | 金沢美術工芸大学 |
研究代表者 |
佐藤 一郎 金沢美術工芸大学, 大学院, 教授 (30143639)
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研究分担者 |
中川原 育子 名古屋大学, 文学研究科, 助教 (10262825)
木島 隆康 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 教授 (10345340)
谷口 陽子 筑波大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (40392550)
秋本 貴透 東京藝術大学, 美術学部, 准教授 (60635233)
工藤 晴也 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (90323758)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 絵画技術 / 絵画材料 / 壁画 / 国際研究者交流、中国、ドイツ / 国際情報交換、中国、ドイツ / 高精細画像 / 元素分析 / 放射性炭素年代測定 |
研究実績の概要 |
平成25年3月に新疆亀茲研究院と交わした協定書の内容に従い、平成26年8月にキジル第69窟、第167窟、第224窟のうち、亀茲研究院から許可を得ることができた壁画の調査を実施した。平成26年度は、前年度に実施できたなかった側光線撮影と、近接部分撮影の通常光、紫外線、赤外線、側光線撮影を行った。 分析班は顔料と有機物に関する情報を得るために、非接触ポータブル蛍光X線装置(X-ray Fluorescence Analysis, XRF) 、非接触の分光器を使用した調査を実施した。石窟造営年代の解明と膠着材や有機の彩色材料を同定するために、亀茲研究院副院長の趙莉氏を通して北京大学、敦煌研究院(東京藝術大学との共同研究協定機関)に依頼し、炭素14年代測定分析と壁画材料に関する微小試料を用いた分析を実施するよう再調整した。224窟の主室側壁の壁画の復元作業を行った。224窟は、20世紀初頭、ドイツや日本などの探検調査隊によってなされた壁画の切除箇所が最も多く、壁画片が世界中に分散した件数が最も多い窟である。切り取られた壁画の原所在を同定する先学の研究の再検討を行い、さらに、ドイツ、フランスの古写真や所蔵記録などを検討し、新たに5件の壁画について原所在を同定しえた。同時に撮影班が行った高精細デジタル撮影の画像を利用し、壁画のコンピュータによる線図の作製、金箔が剥ぎ取られる以前の状況にまで復元した線図の作製を行った。この作業は現在も継続中である。 12月には、亀茲研究院から本科研の研究分担者でもある保存修復研究センター長の葉梅、情報・資料センター長の苗利輝の両名を招聘し、東京芸術大学において、キジル石窟調査報告会(公開)を開催し、研究の進捗状況を確認し、他機関の研究者と意見交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日中関係の悪化の影響、亀茲研究院の組織改編、トップの交代などの要因から、合意書を交わしていたにもかかわらず、調査方法、調査内容に亀茲研究院側からさまざまな制限が加えられた。平成25年度に微量試料を用いた放射性炭素年代測定および顔料・有機物の分析を亀茲研究院側に依頼していたが、世界遺産登録業務を優先し、当方の依頼には全く着手していなかったことが平成26年5月に判明した。亀茲研究院側の消極的な対応に手こずったことが大きい。 (達成度) 度重なる再調整を繰り返す中、当初の計画から軌道修正を行いながら、高精細デジタルカメラによる撮影は概ね完了した。しかし、壁画の復元に必要な地塗り層、インチジョーネの情報が不足している。また、非接触ポータブル蛍光X線装置(X-ray Fluorescence Analysis, XRF)、非接触の分光器を使用して顔料を分析してきたが、より精度の高い有意なデータを得るためには、さらに調査する必要がある。第224窟を中心とする復元作業は現在も継続中である微量試料を用いた放射性炭素年代測定及び顔料・有機物の分析は、亀茲研究院側に再度依頼し再調整を重ねた結果、平成27年1月に北京大学、敦煌研究院による微量試料の採取は完了し、現在分析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
顔料分析、地塗り層(粘土層)などの再調査のために、8月にキジルで現地調査を実施する。10月に中国美術学院(杭州)と亀茲研究院が主催する国際学会に研究代表者である佐藤一郎が本研究について発表する。北京大学、敦煌研究院に依頼した微量試料による放射性炭素年代測定、顔料分析の結果をもとに、従来の研究の再検討、石窟の造営年代、絵画材料の特定とその歴史的位置づけ、制作プロセス、技法等について検討し、その成果を報告書にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成25年度にキジル研究院側にサンプリング箇所を指示し、試料採取と測定分析を依頼したが、キジル研究院は世界遺産登録申請業務を優先し、当方の依頼には全く着手していなかったことが、平成26年5月に判明した。平成26年8月に現地に赴き、再度依頼した。その結果、平成27年1月に放射性炭素測定を、平成27年8月に顔料測定分析を行うことで、再調整ができた。そのため、次年度まで研究を継続せざるをえない。
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次年度使用額の使用計画 |
習近平体制によって定められた新法律の影響を受けて、合意書がとりかわしてあるにもかかわらず、調査方法、調査内容に制限が加えられ、研究が予定どおりに進行しなかった。しかし、平成27年度春には安定するとの見通しが得られているので、平成27年8月に顔料成分分析のために日本側から数人、キジル石窟に派遣することになる。そのための旅費ならびに最終年度の報告書作成費(その他)に使途したい。
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