研究課題/領域番号 |
24402040
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研究種目 |
基盤研究(B)
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
藤井 達也 上智大学, 総合人間科学部, 教授 (80248905)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 精神障害者 / 共生・自律支援 / コミュニティ形成 / 経済的基盤 / 開かれたネットワーク形成 / 伊米比較調査 |
研究概要 |
本研究は、精神障害者の開かれた共生コミュニティ形成の伊米比較調査研究である。アメリカの事例調査ではコロンビア大学マンディバーグ准教授に連絡を取り、コロラド州ボールダー郡の精神障害者を雇用している薬局を開始したリチャード星ワーナー医師を紹介していただき、この薬局の調査だけでなく、ボールダー郡における諸活動等の調査も可能にしていただいた。ワーナー医師は、エコノミック・ディベロップメント・アプローチの例として、この薬局だけでなく、カリフォルニア州ロサンゼルス郡のビレッジの実践例も紹介していたので、夏に二つの事例調査を実施した。支援方法や組織の組み合わせは異なるが、どちらも複数の活動によって仲間の支え合いと働く場、住居の支援がなされていた。 次に、イタリア共和国ヴェネト州ヴェローナ県で活動を展開している社会的協同組合Self Helpの調査等を開始した。ヴェローナ大学ブルチ教授と会議を重ね、イタリア各地の実践との比較、トリエステでの国際会議とミラノで開催された心理社会的リハビリテーション世界会議に参加して、世界の動向把握と伊米比較を試みた。ミラノの国際会議には、ワーナー医師も参加されていて、伊米比較だけでなく、アメリカの各実践の違いの内容についても明確にすることができた。また、南部のカラブリア大学シッコラ講師の調整により、カラブリア州の二ヶ所の調査もできた。社会的協同組合Self Helpは、アソシエーションと組合のA型とB型を巧みに使い、共に住み、共に働き、共に楽しむ活動をさらに発展させていた。内容は異なるが、イタリアとアメリカのどちらにおいても、仲間の支え合いを促進する方法、複数の住居活動、働く場の確保や経済的基盤づくりがあった。精神障害者の開かれた共生を作るのに、仲間の支え合いを活用して、複数の住居と労働活動のネットワークが必要なことと経済的基盤形成の重要性と、各問題点を明確にできた。相違点とそれぞれの課題をさらに明確化すること、労働支援と経済的基盤形成が、次年度以降の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカの調査は、研究協力者のマンディバーグ准教授からリチャード・ワーナー医師の紹介を受けて、計画通りコロラド州ボールーダー郡の調査ができた。そして、故谷中輝雄先生の紹介等により、カリフォルニア州ロサンジェルス郡の調査もできた。さらに、3月にマンディバーグ准教授が来日したので、その講演会にも参加し、平成25年度以降のニューヨーク事例調査等の助言も受けられた。また、イタリアの調査は、在外研究と重ねられたために、約5ヶ月の調査が可能になり、社会的協同組合Self Helpの調査だけでなく、イタリア各地の実践との比較や二つの国際会議にも参加できて、より一層理解できるようになった。ブルチ教授との対話の継続が、私の視野を広げた。そして、トリエステで平成25年度に開催される予定の社会的協同組合の国際会議等の情報も獲得できた。さらにイタリア南部のカラブリア大学アレッサンドロ・シッコラ講師の調整によるカラブリア州の二ヶ所の調査ができたことは、いままで見えなかったイタリアの地域精神保健福祉の問題点を認識する重要な契機となった。単科公立精神科病院を廃止したイタリアにおける多様な住居活動の重要性を再認識したが、チームによるアウトリーチ支援が不活発で、地域資源が少ない場合には、家族の負担が大きくなると考えさせられた。そのような中にあっても、社会的協同組合やアソシエーションの諸活動が新たな共生ネットワーク形成の鍵となることを見出せた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成24年度の調査研究成果を6月に開催される日本精神保健福祉学会のシンポジウムで、シンポジストとして報告する。そして、夏にアメリカの調査とイタリアの調査を再度実施する。マンディバーグ准教授が転職予定なので、どちらを先にするかは連絡を受けてから決定する予定である。また、イタリアのトリエステで社会的協同組合等の国際会議が企画中なので、参加可能な時期であれば参加して、共生の経済的基盤づくりの研究を進める予定である。そして、秋に1週間ほど、ヴェローナの調査を、就労関係と経済的基盤づくりに焦点を当てて実施したいと計画している。秋の学会でも報告を計画していたが、学内の業務と重なり困難となったので、本と論文の執筆に取り組みつつ、調査と並行して、研究をまとめることを進めたい。そして、次の調査課題を明確にして、調査の企画を立てていく予定である。年度の最後の2月末から3月に、アメリカの再調査を実施する予定である。また、ミラノの国際会議で、二つの新しい実践(オープン・ダイアローグとトリアローグ)を知ったが、これらの実践は、精神障害者の開かれた共生コミュニティ形成、あるいは開かれた共生ネットワーク形成に活用可能性があるので、これらの検討も試みたい。 共生・自律支援としてのAuto Mutuo Aiutoの方法の活用については、かなり具体的に研究を進められた。多様な住居活動支援についても、多角的に認識ができるようになった。これらの比較調査研究を進めつつ、開かれた共生コミュニティ形成、あるいは開かれた共生ネットワーク形成における就労支援や経済的基盤形成の比較調査研究に重点を移しつつ研究を推進したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度のアメリカ事例調査では、研究に協力していただいた方々が会議参加費等を辞退された。また、イタリア調査では、当初予定していたイタリアでの通訳者の個人的事情から、イタリアでのインタビュー調査は別の通訳者に依頼して1度だけになってしまった。これらの人件費・謝金を活用するために、2月末から3月にかけて、アメリカのニューヨーク調査を計画したが、コロンビア大学マンディバーク准教授が別の講演で日本に来日されることになった。それらの事等により、調査を来年に延ばして、日本で会って助言をいただき、平成25年度でのアメリカ事例調査の協力者になっていただけることになった。この調査のために残した予算が、残額となった。 平成25年度は、アメリカでの調査を2回、イタリアでの調査を2~3回予定している。マンディバーグ准教授の転職の関係や、トリエステでの国際会議の開催時期が確定していないので、予定をまだ確定できない。しかしながら、平成24年度の実績から推測すると、アメリカ調査2回とイタリア調査2~3回で、旅費がかなり増加する予定である(平成24年度のイタリア調査の旅費は在外研究から支出した)。平成24年度の未使用額を旅費に追加して、調査を実施したい。また、新たな実践等についての情報を獲得したので、文献購入を増やすことも検討している。
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