インドネシアには活発な火山が多く、近年は大規模な火山活動が多発している。ジャワ島の中央部にあるムラピ火山は、2010年10月に記録的な大噴火をし、30km離れたジョグジャカルタ市に火山灰や、大気汚染ガスによる大気汚染などの大きな被害をもたらした。本研究では、インドネシア・ジョグジャカルタ市の大気環境の実態と動向を把握するために、ジョグジャカルタ市・ガジャマダ大学のSri Juari Santosa教授の協力により、2012年9月から2015年9月の3年間に及ぶ継続的な大気粉塵と大気汚染ガス試料の捕集をガジャマダ大学で行い、捕集した大気試料の抽出・分析を慶應義塾大学理工学部で行った。 大気粉塵を捕集したフィルターは純水で抽出後、イオンクロマトグラフで分析し、大気粉塵中の水溶性化学イオン成分を測定した。ジョグジャカルタ市の大気粉塵に含まれる総化学イオン成分濃度は8.74μg/m3であり、日本の首都圏と比較すると、大気汚染に由来するNH4+、SO42-が少ない代わりに、海塩由来のNa+、Cl-やバイオマス燃焼由来のK+が多いといった特徴があった。 後方流跡線解析により、ジョグジャカルタ市周辺に流入する大気は、乾季(7~10月)には海上から、雨季(11~6月)には陸上から流入することが確認された。ジョグジャカルタ市の大気粉塵の発生源の寄与を検討するため、PMF法を用いて解析を行った。大気汚染ガスからの2次生成起源、海塩起源、バイオマス燃焼起源、化石燃料の燃焼起源、土壌起源の5つの発生源を推定することができた。海塩起源の大気粉塵は乾季(7~10月)に増えており、南東方向のインド洋の海上からの大気の流入が原因であった。逆に、2次生成起源の大気粉塵が雨季(11~6月)に増加しており、人為起源の影響の大きい西方向の地域からの大気の流入が原因であった。
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