実態調査、公開情報の収集・整理、インタビューなどを通じて、当該地域において下水再生水の利用などを通じた新たな都市水循環系を検討することの意義を見出した。深せん市政府による試算では、2020年には現在よりも年間5億トン程度水需要が増加するとされ、そのために下水再生水利用、雨水利用、新規遠方引水などが計画されている。そこで、新規遠方引水と、市内において下水再生水の利用を想定した新たな都市水循環系を構築する場合について、二酸化炭素排出量を評価指標としたシナリオで比較を行った。遠方引水としては設定送水距離148.5kmとした。下水再生水利用としては、下水二次処理水に膜処理およびオゾン処理を行った場合を想定した。この時には、7か所の下水処理場から4か所の近傍貯水池へ送水するとした。ただし、実態調査の結果、下水再生水は市内河川の浄化目的で用いられている場合、用いることが想定されている場合があることから、河川放流を意図している下水処理場については総処理量の50%を、意図していない下水処理場については90%を貯水池へ送水するとした。下水再生水の生産については、別の研究プロジェクトにおける実験結果より得られた必要電力量、試薬量をもとに計算を行った。その結果、送水電力量、送水電力量+試薬注入を含む膜処理では、遠方引水と比較して、下水再生水利用の方が有利であった。オゾン処理を導入すると、二酸化炭素排出量は増加するものの、遠方引水と比較して大きな差は無かった。以上のとおり、長期的・安定的な水資源供給の観点からは、下水再生水利用に優位性があると考えられ、さらに水質面の向上を考慮すると、オゾンを導入することにも検討の余地があると考えられた。 以上のとおり、新たな水循環系に関して具体的な結果を得られたことから、より調査を進展させることも通じて、現地においてより具体的に議論することが可能となった。
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