研究課題
基盤研究(B)
平成24年11月にハイナ川において、バッテリー工場の影響を受けていない上流から河川水、底質を採取して鉛を分析すると共に、懸濁物質濃度、pH等の水質分析も行った。さらに、河川水の分光反射率と衛星データに基づき、同川河口部における懸濁物質濃度分布を定量化する手法を確立した。また、解像度は粗いものの、時間分解能が高い中分解能衛星のデータ処理を行い、同川から流出する懸濁物質濃度の時系列的な変化を概ね把握できるようになった。一方、同川から流出する浮遊粒子状物質と懸濁物質について移流拡散シミュレーションを実施、衛星リモートセンシング画像との定性的比較を行い、その妥当性を検証すると共に、ハイナ川河口からの汚濁物質の移流拡散は、南西方向に卓越しうることを明らかにした。同11月にハイナ川河口から沿岸沿いに西に16kmまで、造礁サンゴ探索のための予察的な調査を実施し、塊状珊瑚の生息地点、4カ所を見出すと共に、Diploria spp.など数種類の塊状サンゴを採取した。これらのサンゴには目視でも数年分の年輪が確認された。日本に移送されたサンゴ試料は、スラブ(薄板)状に切断され、軟エックス線による年輪の疎密バンドの撮影を行い、約10年分の年輪を保持していると推定された。成長軸に沿って微小試料切削が行なわれた。今後、水温指標となるSr1Ca比分析による年齢査定を行う予定である。さらに、翌年2月に再度、現地調査を実施し、前回の調査海域よりも、さらにハイナ川河口に近い海域で、塊状サンゴを探索し、Diploria spp.に加え、カリブ海における環境復元研究の標準種であるMonteastrea snnularis(マルキクメイシ属の一種)の塊状群体を採取した。目視観察の結果、15年ほどの年輪が含まれている。これらの2回の調査で採取されたサンゴ試料を用いることで、鉛汚染の時間空間分布を復元できる可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度の目標とした河川水や底質の鉛の分析、懸濁物質濃度等の把握、衛星データに基づく懸濁物質濃度分布の定量化、沿岸流動モデルの骨格の作成、そして珊瑚の採取と鉛分析への着手については、予定通り行うことができた。
ハイナ川における晴天時及び降雨時における鉛の流出実態調査を継続し、数値モデルによる将来予測を行うためのデータとする。また、当該モデルの精度向上のため、イベント時を含む河川の精緻な流速、沿岸域の海流、地形などモデル作成に必要となる基礎データを得る。さらに、採取したサンゴ骨格の分析を本格的に行い、近過去~現在の鉛汚染の実態を時空間的に再現するデータを得る。
ドミニカ共和国への渡航予定が延期となったため、予算執行に変更が生じた。来年度は研究員を雇用し、人件費として執行する予定である。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
土木学会論文集B2(海岸工学)
巻: 68 ページ: 論文212