研究課題/領域番号 |
24404007
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
長江 真樹 長崎大学, 大学院水産・環境科学総合研究科, 教授 (00315227)
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研究分担者 |
高尾 雄二 長崎大学, 大学院水産・環境科学総合研究科, 教授 (20206709)
久保 隆 長崎大学, 産学官連携戦略本部, 助教 (40397089)
岡田 二郎 長崎大学, 大学院水産・環境科学総合研究科, 教授 (10284481)
河本 和明 長崎大学, 大学院水産・環境科学総合研究科, 教授 (10353450)
高辻 俊宏 長崎大学, 大学院水産・環境科学総合研究科, 教授 (70163219)
西山 雅也 長崎大学, 大学院水産・環境科学総合研究科, 教授 (50263801)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 越境大気汚染 / 生物毒性 / 東アジア / PAHs |
研究概要 |
長崎県西彼杵半島、韓国済州島、沖縄県国頭村と長崎市内における多環芳香族炭化水素類の濃度および遺伝子毒性の5年間の季節変動を解析した結果、化学物質濃度も遺伝子毒性も冬季に高く、夏季に低い傾向が見られた。この傾向は、ミジンコ急性毒性についてもほぼ同様であった。各地点における年間平均値も季節毎の平均値も、山間部よりも長崎市内で捕集した大気試料が長崎県西彼杵半島よりほぼ高かった。また,長崎市内で検出された冬季の大気の化学物質濃度および遺伝子毒性の約7割が大陸由来で、約3割が市内の自動車排ガス等の影響と考えられた。 長崎県西彼杵半島および長崎市内において、冬期および夏期に捕集された大気サ ンプルの抽出物をフタホシコオロギに急性投与し、嗅覚学習に対す る影響を調べた。2地点いずれにおいても冬期の大気中化学物質が嗅覚学習を有意に阻害した。用いたサンプルの大気移動経路を後方流跡線解析により調べた結果、冬期サンプルは中国主要都市周辺を経由して飛来したものと予測された。昆虫の学習行動に対して越境大気物質が悪影響を及ぼす可能性が示された。 西彼杵半島へ流入する気塊の通過地域と毒性の関係を求めたところ,大部分が中国東北部から朝鮮半島を経由するルートであることを明らかにした。次に、大気に含まれる化合物の比から発生源の推定を試みたところ,冬季の大気は石炭燃焼由来の寄与が大きい領域に分類され、夏季は逆に石油燃焼由来の寄与が大きい領域に 分類された。これらのことから,我々がこれまで指摘してきた冬季における中国東北部での石炭燃焼に由来する越境汚染を裏付けることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
越境大気汚染の周年的解析については、ほぼ計画した通り順調に進んでいる。しかしながら、これまで明らかにされてきたPAHs以外の毒性成分は見出せていない。研究自体はスムースに進行しているが、ある程度の毒性が認められるPAHs以外に強い毒性をもたらす物質の検出に難航している。 以前から化学物質の抽出に用いてきたジクロロメタンに加え、アセトンおよびヘキサンの3溶媒を用いて化学物質の抽出・微量分析・毒性試験を実施した、これまで解析対象としていた7種類のPAHsに加えて、5種の毒性の高いPAHsを見出すことには成功した。しかし、これら12種のPAHsによる毒性が、ジクロロメタンで抽出した越境大気試料に含まれる化学物質による毒性全体の高々10%程度であることから、依然として未知の毒性物質が存在する状況である。 当初の研究計画では、2年目である2013年度までに比較的毒性の高い物質を見出し、2014年度でそれを用いた生物アッセイを行う予定にしていた。そのため、現在までの達成度を「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度(2013年度)同様、韓国および日本において気団中の化学物質を捕集する。捕集した化学物質は抽出液として回収し、以下の生体影響評価と化学分析を行う。一昨年度(2012年度)、捕集大気に含まれる化学物質の一斉分析を行い、それらの中から毒性が高いと想定され、かつ存在量が多い化学物質約10種を選定し、それらの毒性評価を実施した。しかし、選定したそれら化学物質による全体への毒性寄与率の総和は、高々10%程度であり、残りの90%の毒性については不明であった。この結果を踏まえ、昨年度(2013年度)は、捕集した化学物質の画分化による未知毒性物質の絞り込みに焦点を充てて研究を進めた。現在、化学物質の分画方法を模索中であり、分画中の化学物質の微量分析や毒性評価には至らなかった。そこで本年度(2014年度)も、2013年度に引き続き、捕捉された大気中化学物質の分画化ならびにそこに含まれる化学物質の定性。定量、毒性評価を経て、未知毒性物質の探索を進める。研究実施の役割分担は以下の通りである。 (1) 捕集大気からの抽出液を用いた生物影響評価試験:ミジンコを用いた毒性評価試験(長江)、サルモネラ菌を用いた遺伝子毒性試験(久保)、昆虫を用いた学習・行動異常解析(岡田)、化学物質が土壌微生物に与える影響解析(西山) (2) 捕集した大気に含まれる有害有機化合物の定性および定量分析(高尾) (3) 気団の発生起源推定:飛来空気塊の起源推定のための後方流跡線解析(河本)、放射能測定による気団の起源推定(高辻)
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の当初計画では、50万円以上の研究機器として「ハイボリュームエアサンプラー」を6台計上していた。しかしながら、現有備品等の活用により平成24年度に2台を購入し、さらに今年度(平成25年度)に2台を購入した。つまり、当初計画から考えると、2台分の研究経費が浮いた形となっている。これまでの2年間で、この機器(ハイボリュームエアサンプラー)の修理費への支出があったことを考慮すると、「現時点での次年度使用額=未購入のハイボリュームエアサンプラー2台分-本機器の修理費用」と見なされる。 よって、今回発生した次年度使用額は、適切な研究実施の過程で生じたやむを得ないものであり、研究遂行の遅れ等を意味するものではない。 平成26年度においても、ハイボリュームエアサンプラーを用いて大気捕集を行う。本機器は、野外に設置して稼働させるため、落雷等の自然現象等による故障が度々発生する。多くの場合は修理で対応可能であるため、そのような修理が必要な事態が発生した場合、次年度使用額を修理代に充てる。また、修理不能と判断される場合には、本機器新品を購入する費用に充てることも想定している。
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