研究概要 |
研究代表者らの先行研究では,タイ王国のチャオプラヤ川の上流から下流にかけて広い範囲で薬剤耐性の大腸菌が見つかった。本研究では,この研究成果を発展させ,薬剤耐性菌の遺伝情報を解析することにより,同流域における耐性菌の発生源と耐性獲得経路を推定することを目的とする。 本研究は4つのタスクから構成されるが,平成24年度にはそのうち3つのタスクについて研究を実施した。それぞれのタスクでの研究成果の内容を以下にまとめる。 【タスク1.チャオプラヤ川流域における抗生物質耐性菌の検索】 バンコク市内の複数の下水処理場および病院からの排水を対象にした薬剤耐性大腸菌の調査を計画した。しかしながら,関係機関からの調査許可を得るのに時間を要したために,当該調査は次年度に実施することとした。 【タスク2.耐性遺伝子の検出と遺伝情報にもとづく耐性菌発生源の推定】 研究代表者らが2011年1月にチャオプラヤ川流域の全48地点で河川水から分離した大腸菌の菌株(計412株)から,ゲノムおよびプラスミドを抽出した。抽出された遺伝子に対して,先行研究で陽性率が比較的高かったテトラサイクリンを対象に,既知の耐性遺伝子26種類の有無に関するスクリーニングを行った。陽性株についてシーケンス解析による確定作業を行った結果,最終的に,412株の大腸菌のうち3株が耐性遺伝子tet(B)を,1株がtet(D)を有することが確認された。 【タスク3.各種発生源における耐性菌発生ポテンシャルの評価】 カセサート大学工学部環境工学科の実験室に活性汚泥法による都市下水処理のベンチスケールリアクター2基(1つは標準活性汚泥法,もう1つは膜分離活性汚泥法を採用)を設置し,運転を開始した。実際の処理場から採取した種汚泥と,模擬下水を用いた定常運転が可能となった。曝気時間等の運転条件に応じて,リアクター内の大腸菌の耐性スペクトルが変化することを観測した。
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今後の研究の推進方策 |
タスク1では,本年度に実施できなかった現地調査を,次年度に実施する。タスク2では,テトラサイクリン耐性遺伝子の検出率が極端に悪いため,新たにプライマーを設計して検出率向上を目指す。また,その他の抗生物質についても同様に耐性遺伝子の検出を試みる。タスク3および4については,当初の計画通りに研究を推進する。
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