研究課題/領域番号 |
24404018
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
遠藤 銀朗 東北学院大学, 工学部, 教授 (80194033)
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研究分担者 |
宮内 啓介 東北学院大学, 工学部, 教授 (20324014)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 東南アジア / ベトナム / ヒ素による地下水汚染 / ヒ素高蓄積植物 / 水耕栽培処理 / 微生物によるヒ素酸化 / ファイトレメディエーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、東南アジアの国々における地質学的要因によって引き起こされる地下水のヒ素汚染を経済的な方法として植物によって除去することにより、このヒ素汚染の問題を解決する技術的方法を開発することである。 平成26年度においては、前年度までの研究で明らかにできたベトナム・メコンデルタ地方における地質学的要因等によって引き起こされる地下水のヒ素汚染を解決するために、現地国の経済状況に見合った地下水からのヒ素除去技術としてヒ素高蓄積植物でありかつ東南アジアの現地国にも自生するモエジマシダ(Pteris vittata)を用いた水耕栽培処理技術を開発するための実験を行った。実験は、国内における基礎実験として室内レベルの水耕栽培処理実験および圃場レベルの土壌植栽実験と、ベトナム・ホーチミン市のNong Lam大学に設置したパイロットレベルの水耕栽培処理実験としてなされた。 国内実験により、モエジマシダの水耕栽培は可能であり、ヒ素濃度1000 ppbの疑似ヒ素汚染水を2週間程度で環境基準値以下にすることが可能という結果が得られた。また、ベトナム・ホーチミ市のNong Lam大学構内に設けたパイロットプラントを用いた模擬地下水からヒ素を除去するためのバッチ実験の結果より、地下水中に約500 ppbの濃度で溶存している亜ヒ酸イオンのヒ酸イオンへの微生物酸化処理によって、高濃度(約20~30 ppm)で共存する第1鉄イオンの第2鉄イオンへの酸化も同時に起こり、鉄イオンとヒ酸イオンの水酸化物としての共沈により全ヒ素濃度はベトナムの農業用水基準である50 ppb以下に低下することが知られた。また、この微生物酸化処理後の地下水のモエジマシダ水耕栽培処理によって、モエジマシダ羽片部には比較的高濃度のヒ素が吸収蓄積され、最終水耕処理水中の全ヒ素濃度はさらに低下することが知られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の早い段階でベトナムのNong Lam大学構内に地下水ヒ素除去のためのパイロットプラント実験装置を完成することができたことから、この装置を用いて微生物による地下水中亜ヒ酸のヒ酸への酸化処理実験を行い、微生物による亜ヒ酸酸化の有効性を確認することができた。この現地実験によって、メコンデルタ地下水中に共存する鉄イオンの酸化による第2鉄イオンの生成とヒ酸との共沈現象によって、ある程度まで地下水中のヒ素を除去することが可能であることを明らかにすることができた。また、国内実験では、モエジマシダの水耕栽培処理による高度なヒ素除去はこのシダのヒ素吸収除去に対する高いアフィニティーを利用することによって達成できることもしられたことから、上記微生物処理とモエジマシダの水耕栽培処理の組み合わせによって、ヒ素汚染地下水からの経済的なヒ素除去技術を開発する可能性をさらに確実なものとすることができた。 このように、平成26年度の研究全体を通して、ヒ素によって汚染された大量の地下水をできるだけ経済的に浄化し生活用水や農業用水として利用可能にするための技術的方法として、ヒ素高蓄積植物の水耕栽培を用いたファイトレメディエーション技術の有効性を確認することができた。また、国内実験においてモエジマシダ水耕系の微生物によるヒ素酸化がなされていることの科学的な実証的なデータを得ることができた。 その一方で、これらの実験はバッチ実験として行いヒ素除去の処理性能を一定程度把握できた段階に留まったため、処理すべき原水の水面積負荷、植物体量、植物齢、水温、気温および日照時間等をパラメータとして決定するための連続処理実験を行うことが今後の課題として残された。
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今後の研究の推進方策 |
ベトナム現地における実験として、すでに設置したパイロットプラントを用いて、ヒ素酸化微生物によるヒ素酸化反応プロセスとヒ素高蓄積植物であるモエジマシダ水耕栽培プロセスを組み合わせて地下水からのヒ素除去機能を実証するためのバッチ実験と連続実験を行うことにする。これによって全体プロセスの設計条件と運転操作条件を決定するとともに、現地国においてパイロットプラント実験を行って処理性能を把握しヒ素除去技術としての適用可能性を評価する。 国内実験においては、地下水および土壌中のヒ素を酸化する微生物種を解明するとともにヒ素酸化酵素遺伝子についても同定し解析を行い、微生物学的ヒ素酸化についてより詳細な科学的な裏付けデータを得る。また、微生物酸化処理によって発生する鉄/ヒ素水酸化物の後処理・処分方法の開発と、シダの羽片バイオマスに蓄積されたヒ素の処理・処分方法の開発が課題として残ることから、これらについても技術的提案を行う。また、シダバイオマスの有効な活用方法についても提案を行い、ヒ素除去植物水耕栽培を核心技術とする環境保全型ヒ素除去のためのトータルプロセスおよびシステムを開発する。 平成27 年度は本研究計画の最終年度のであることから、本研究において開発したプロセスおよびシステムについてベトナム・メコンデルタのヒ素汚染地帯の地下水浄化方法としての適用可能性、特に経済的適用可能性についても調査し考察する。また、ベトナム以外の同様な広範囲のヒ素汚染地下水の問題を抱える東南アジア諸国および南アジア諸国への普及の可能性についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の物品費と旅費支出の調整によって10737円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記次年度使用額は、平成27年度における物品費の購入および旅費支出等に当てて使用する。
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