研究課題/領域番号 |
24404023
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉松 治美 東京大学, 生産技術研究所, 特任研究員 (90436577)
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研究分担者 |
浦 環 九州工業大学, 社会ロボット具現化センター, 教授 (60111564)
水野 勝紀 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (70633494)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 淡水棲イルカ類 / ガンジスカワイルカ / 環境変動 / エコーロケーション / PAM / Inter-Click Interval / センサス |
研究概要 |
定点観測ステーションでの2組のアレイシステムによる長期音響モニタリングにより、半径約200m内のイルカ行動の高精度計測を実施する一方で、目視+リアルタイム音響計測によるセンサス手法を開発し、ナローラ堰~カルナバス間の約12kmのガンジスカワイルカの棲息流域で緊急センサスを実施した。また、開発したICI(Inter-Click Interval)を用いた短いICIの検出手法の検証と改良を進めている。 2013年、6月~7月、ガンジス河上流で大洪水が発生、観測ステーションの位置するナローラ堰~カルナバス間の約12kmの流域に棲息する約15~20頭のガンジスカワイルカの多くが堰を越えて下流に流された。生態系保全のため、流域に残るイルカの正確な頭数を調査する事がを急務となった。効率的なセンサスには目視と音響を組み合わせた手法が有効である。また、イルカ発見率の向上には、現場において目視と音響情報を照合し相互補完することが効果的である。そこで、曳航式小型ハイドロフォンアレイを改造し、イルカの方位データをリアルタイム表示できるGUI機能を付加したリアルタイムセンサス手法を開発。11月19日~20日の2日間、対象流域にて緊急センサスを実施した。 両日のリアルタイムセンサス結果から、音響データの優位性と安定性が示され、洪水後流域に残るイルカは少なくとも6頭と現場で判断、結果は、直ちに関係機関に報告され地元メディアに報道された。その後の音響データのオフライン解析によりリアルタイムセンサスの結果が検証された。また、センサスによるイルカ分布状況から、イルカの日々の移動パターンが確認された(初日:ステーションの上流側1頭、下流側5頭、二日目:上流側5頭、顆粒側1頭)。定点観測ステーションの音響データ解析から、イルカの移動が朝と夕刻の2回見られる事が判明。現在、イルカ行動の詳細解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
定点観測ステーション近傍を行き来するガンジスカワイルカの移動あるいは滞留中のICI(Inter-Click Interval)の変化のトレンドに着目することで、子供のイルカを含むグループのイルカのクリックトレインのICIの値は、移動中でも12msec以下のものを多く含むことが新たに判明してきた。短いICIのクリックトレインはバズ-と呼ばれ、捕食やコミュニケーションに用いると報告されている。長期観測で取得した膨大なデータを解析することで、ガンジスカワイルカの社会行動について解明するため、取得した音響データから1頭のイルカのバズ-を自動検出できるソフトを開発し検討を進めている。 定点観測による詳細行動解析の別に、大洪水後の流域のイルカの正確な頭数把握のため、新しい目視と音響によるリアルタイムセンサス手法を開発し、センサスを実施することで、その有効性が実証された。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの長期観測により取得したデータの総合的解釈のため、ICI(Inter-Click Interval)の変化トレンドをパラメタとした解析を行い、ガンジスカワイルカのエコーロケーション行動、特にバズ-と呼ばれる短いICIのクリックトレインと行動の関連について研究を進める。これにより、保護・保全施策立案に必要なガンジスカワイルカの社会行動、特に子供のいるグループの行動について理解できると期待される。 次ぎに、大洪水という自然災害のため、以前15~20頭が棲息していた流域には現在6頭程度のガンジスカワイルカが棲息する。河川形状も変化した。このような環境変化にあって残る6頭のイルカがどのように行動しているか、以前と変化があるか、継続している長期観測による音響データを解析することで自然環境とイルカ行動の関係について検討を進め、観測手法へのフィードバックを図る。 開発した目視と音響によるリアルタイムセンサス手法の有効性は実証された。本手法をガンジスカワイルカだけでなく、ボートの往来の激しい河川に棲息する遊泳速度の速い他の淡水棲イルカ類に応用し、長距離を短時間でセンサスするには、支援ボートのスピードを加速する必要がある。このため、ボートノイズを除去するフィルタ機能を追加し、装置の流体抵抗を軽減する改造を進める。 本研究では、定点観測ステーションでの高精度長期音響観測システムおよび棲息流域をカバーする目視+音響によるリアルタイムセンサス手法を開発している。これらを並行して実施することで、棲息域全体の中のイルカ行動のダイナミズムとイルカの生物ソーナーのメカニズムが判明すると考えられる。本手法をアジアに棲息する淡水棲イルカ類の観測に応用し、生物多様性を保護・保全するための生態系の長期観測の機運をアジア域で高め、日本がこの分野でイニシアチブを取ることを目指して国際共同研究提案をする。
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次年度の研究費の使用計画 |
海外協力研究者との観測データの受け渡しのための輸送経費について、一部為替レート等の関係で差額が生じたことなどにより若干最終的な数字に差違が生じたことによる。 次年度計画において、十分調整可能な数字であるため、特段の問題はない。
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