研究課題/領域番号 |
24405001
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小田 洋一 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (00144444)
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研究分担者 |
堀 道雄 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (40112552)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 鱗食シクリッド / 交差捕食の卓越 / タンガニイカ湖 / 頻度依存淘汰 |
研究概要 |
鱗食魚(Perissodus microlepis)の捕食行動と顎形態の左右性が、いつどのように現れるのかを明らかにするため、様々な発達段階の個体を野外で採集した。下顎骨の左右差を計測した結果、プランクトン食である稚魚期でも、左右差の頻度分布は二山型を示し、体長の増加とともにその左右差は拡大した。またP. microlepisの胃から得た鱗を精査してそれが由来する体側を割り出し、捕食行動の左右性を推定した。成魚では、顎形態の利きと合致した体側の鱗を専ら摂食していたが、幼魚では逆側の鱗も摂食していた。以上より、顎形態の左右差は鱗食の左右性行動の獲得前に発現し、成長とともに拡大することが示された。また、発達初期では被食魚の両体側を襲うが、顎形態の利き側からの襲撃では捕食成功率が高いことを学習して、捕食行動が次第に利き側に偏っていくと考えられる。 タンガニイカ湖での現地調査では、次の成果を得た。まず、潜水調査でP. microlepisの幼魚の行動、特に摂食行動を観察した。その結果、発育初期には水中で群れをなしプランクトンを捕食しているが、次第に他種のプランクトン食の幼魚の群れに合流して、彼らの鱗をはぎ取るようになることを確認した。次に、肉食魚では自分の利きとは逆の小魚を多く捕食する現象(交差捕食の卓越)が知られているが、鱗食魚ではどうなのかを検証した。鱗食魚2種(P.microlepisとP. straeleni)の若魚を水中で追跡し、鱗食を確認後に鱗食魚とその被食者を捕獲して、両者の利きを判定した。その結果、2種とも自分と逆の利きの被食者を同じ利きの被食者よりも数倍多く鱗食していた。交差捕食が卓越するならば、捕食者-被食者相互作用において頻度依存淘汰が働き、それによって捕食者と被食者の個体群で左右二型が動的に維持されると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
左右性の獲得過程については、仔魚・幼魚の胃の内容物から被食魚の鱗の左右性を見分けることで解析でき、論文を投稿する準備段階に至っている。また、現地での水中観察から、鱗食魚の幼魚がプランクトン食の幼魚と混群を作り鱗食の練習期間ともいえる時期を持つことを明らかにできた。さらに、鱗食魚の若魚の行動観察から、鱗食魚の捕食被食相互作用においても、魚食魚と同様に交差捕食の卓越が生じていることも実証し、野外における左右二型の維持機構を解明できる見通しが立った。現地(タンガニイカ湖)で研究対象の鱗食シクリッドを採取するだけでなく、国内で産卵飼育することにもチャレンジし、淡水魚の水族館として有名な「アクア・トトぎふ」の協力を得られるようになった(担当:波多野順 博士)。さらに視覚入力が左右性行動に果たす役割については、当初の研究計画にはなかったが、調べた結果重要な寄与があり特に左右性との関係において興味深い成果を得た。以上の理由により、当初計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度、タンガニイカ湖での最終調査を行う。鱗食魚2種の若魚の水中での行動観察を継続し、交差捕食の卓越についての定量的データを集積する。さらに鱗食魚を含む捕食者と被食者の全個体群について左右性の比率の年変動のデータも集積し、左右二型が群集レベルで頻度依存的に振動しながら維持されていることを周期解析で示す。鱗食シクリッドの遺伝子解析をめざし、国内での産卵飼育を実現する。研究成果をまとめて論文および国際学会で発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
× ×
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