研究課題
1)脂肪酸分析に基づくメタン栄養食物網の定量的解析翡翠水庫のメタン栄養食物網を定量的に評価するために、MOBに特異的な脂肪酸をバイオマーカーとした食物網解析を実施した。まず、単離培養したMethylobacter tundripaludumおよびMethylocystis roseaの脂肪酸分析をおこない、MOBの主要系統群であるType IおよびType IIのリファレンスをそれぞれ作成した。平成25年度の夏季および冬季に採集した懸濁態有機物(POM)および動物プランクトンの脂肪酸を分析し、POMに占める藻類や細菌の割合、および、それらが動物プランクトンによって同化される割合を調べた。分析の結果、動物プランクトンは、夏季に主に藻類を餌源として利用していたが、冬季に細菌を主食とした。動物プランクトンは、藻類による表層生産の低下する冬季に細菌による底層生産に食性をシフトすることが示唆された。また、動物プランクトンの餌源としてMOBの寄与率は冬季に増加しており、安定同位体混合モデルに基づく食物網解析の結果と整合した。2)メタン栄養食物網・炭素フラックスモデルを用いたメタン酸化細菌貢献度の推定野外観測と食物網解析に基づいて、湖内のメタンフラックスおよびメタン栄養食物網による炭素リサイクル率を推定するための食物網・炭素フラックス統合モデルの基本枠組みの構築、および、翡翠水庫特異的なパラメータ決定をおこなった。次に、このモデルを用いたメタンフラックスおよびメタン栄養食物網の季節変動パターンのシミュレーション実験をおこない、翡翠水庫の動物プランクトン生産におけるMOB生産の寄与率が夏季に低く、冬季に高くなるという観測結果を再現することに成功した。冬季のMOB寄与率が年毎に大きく変動するという観測パターンは、夏季の台風などによる短期的な鉛直混合によって説明できることが実証された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度の研究により、新奇な嫌気的メタン酸化細菌(NC10)が本湖沼の深底層において周年存在することを世界で初めて明らかにしたが、その単離培養法が確立していないため、脂肪酸分析に基づく食物網解析を行うためのリファレンスの作成には至らなかった。
台湾側共同研究者と密に情報交換をしながら野外調査・実験と試料分析を進めるとともに、メタン栄養食物網モデルの構築を推進する。
現場に設置された自動観測装置が大型台風の影響で消失したため、研究期間の延長を余儀なくされた。H27年度に観測を継続することにより、消失期間のデータを補完する予定である。
すべて 2015 2014
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Plankton and Benthos Research
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