研究課題/領域番号 |
24405009
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
中坪 孝之 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (10198137)
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研究分担者 |
佐々木 晶子 広島大学, 生物圏科学研究科, 助教 (10535470)
内田 雅己 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 准教授 (70370096)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 高緯度北極 / 炭素循環 / 湿地 / モデル解析 / リモートセンシング / 炭素放出・流出 |
研究実績の概要 |
本研究は、近年大きな土壌炭素ストックがあることが明らかになってきた高緯度北極を対象に、陸域生態系からの有機炭素の放出・流出プロセスを定量的に調査し、衛星リモートセンシングと炭素循環モデルとを組み合わせることで、生態系からの炭素放出・流出を広域かつ長期的に評価することを目的としている。調査地をスピッツベルゲン島のブレッガー半島(北緯79 度、東経12 度)とし、1)現地観測による炭素放出・流出速度の測定とその変動要因の解明、2)室内実験、分析による有機炭素の起源とその動態の解明、3)モデル解析と衛星リモートセンシングによる炭素放出・流出量の広域評価と将来予測をめざす。本年は、2名が夏期に現地滞在し、野外調査を行った。主な成果は以下のとおりである。 1.ブレッガー半島に位置する湿地(Stuphallet)において温室効果ガスの発生吸収量を調べるため閉鎖チャンバー法での測定を行うとともに、酸化還元電位の測定を各所で行った。Stuphalletでのコケ群落下の土壌を日本に持ち帰り、ガス交換量の測定を行った。還元状態でのメタン発生を調べるため窒素ガス条件下での実験を行った。酸素消費を加速させるためブドウ糖の添加なども行ったが実験室ではメタンは発生しなかった。 2.融雪期6月4週目から降雪期8月3週目にかけて、Stuphalletにおいてピート試料ならびに水試料の採取を行い、各水試料のDOC量と難分解性DOC量を測定した。加えて、現地に設置した流量計のモニタリングデータを併せて、湿地帯から海域に流出するDOC総量の概算をおこなった。その結果、DOCの流出量は生物呼吸量やバイオマス固定量と遜色ないレベルで重要なマスを示すことが明らかになった。さらに,水試料中の50%近くが難分解性DOC量であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までで、本研究課題の柱の一つである湿地からの有機炭素流出を推定するための基礎データをとることができた。また、湿地における二酸化炭素、メタンフラックスに関するデータもほぼ予定通りに得ることができたので、この評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では最終年も現地計画を予定していたが、昨年度までに必要なデータがほぼ揃ったため、本年度はそれらを用いた解析と予測評価、学会発表、論文執筆等を中心に実施する。 これまでに得た、湿地における炭素フラックスの測定結果を解析し、その変動要因を明らかにする。その結果をもとにしたモデルを作成し、フラックスの長期推定を行う。 湿地の主要な生産者であるコケ類の光合成・呼吸速度と光、温度、水分との関係を解析しモデル化する。現地観測で得られた環境要因のデータをもとに、現地における炭素吸収、放出速度を推定する。これらの結果と、現地で行った二酸化炭素フラックスの測定結果をつきあわせ、その変動要因について検討する。 昨年度に測定を行った湿地からの流出水の流量、有機炭素含量のデータをもとに、炭素流出量の推定とその変動要因の解析を進める。 上記の結果を統合し、湿地からの炭素放出・流出量の全体像を明らかにするとともに、Uchida et al. (2016)のモデルを改良して将来予測を行う。また、これまで行ってきた衛星リモートセンシングの結果をまとめ、湿地からの炭素放出・流出過程を入れ込んだブレッガー半島全体の炭素循環過程の広域評価を行う。
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