昨年度に引き続き、タイを中心に、ベトナムおよび香港でマガリアリ属のコロニー構成についての野外調査とともに、実験室内での行動観察等を実施した。タイでは、タイ自然史博物館のW. Jaitorong博士とともに西部(カンチャナブリ)を初めて訪問するとともに、北部(ドイチェンダオ)及び南部(トラン)を再訪して調査を実施した。ドイチェンダオでは研究協力者であるC. Peeters博士を招聘し、共同で野外調査を実施した。香港では、これまで調査した事がなかった秋期に訪問して野外調査を実施した。ベトナムではハノイ近郊を研究分担者の江口克之博士、研究協力者の山根正気博士と訪問し、野外コロニーの構成を明らかにした。また、C. Peeters博士を日本に招聘し、研究全体についての議論をするとともに、研究結果のとりまとめ等について打ち合わせた。 野外調査の結果をまとめると、東南アジアのマガリアリ属のうち14種は有翅女王だけが受精産卵し働きアリはつねに処女であった。フタイロマガリアリとメナドマガリアリは多くのコロニーで働きアリが受精産卵していた。メナドマガリアリでは、僅かなコロニーで有翅女王が繁殖していたが、大部分のコロニーでは複数の働きアリが受精産卵していた。フタイロマガリアリでは、受精産卵個体の形態に甚だしい地理的変異があり、インドネシア東部では大型無翅女王か大型働きアリが受精産卵していた。インドネシア以外では大型無翅女王は発見できず、大型働きアリか有翅女王が受精産卵していた。有翅女王の形態にも地理変異があり、香港、タイ北部、ベトナムで採集された有翅女王と比べて、タイ南部の有翅女王は著しく小型であった。これら近縁種間、個体群間でみられた繁殖構造の多様性について、それぞれの地域の環境条件等を考慮して考察する予定である。
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