研究課題/領域番号 |
24405013
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
鈴木 仁 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (40179239)
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研究分担者 |
佐藤 淳 福山大学, 生命工学部, 准教授 (80399162)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ハツカネズミ / 人為的拡散 / 選択的一掃 / 二次的接触 / 日本列島 / 系統地理 / 毛色変異 |
研究実績の概要 |
地球上に存在する生物は、一般に地理的隔離による遺伝的分化や二次的接触によるゲノムの再会合(浸透性交雑)など複雑な歴史を持つ。ハツカネズミ(Mus musculus)もその1例で、有史以前のヒトの移動とともにユーラシア大陸全域に分布を広げた結果、現在、ユーラシアにはM. m. musculus [MUS](ユーラシア北部)、M. m. castaneus [CAS](南アジア・東南アジア)、およびM. m. domesticus [DOM](西ヨーロッパ)の3亜種が展開する。本年度は、インドおよびパキスタン産ハツカネズミ40個体において、毛色関連遺伝子とその周辺の6遺伝子座を新規に解析し、以前解析したユーラシア他地域の60個体のマウスの解析結果と合わせ、系統地理学的解析を行ったその結果、ハツカネズミは確かにCAS, DOM, MUSの3つの主要系統が存在することが示された。7つの遺伝子座の解析から、広域拡散以前に遺伝的交流が低頻度ではあるが存在したことが示唆された。パキスタン・インドに分布するCASにおいて大きな変異性が認められ、この広大な地域に自然分布域があったことが示唆された。一方、広域拡散したCASマウスにおいては均質性が高く、微小な地域系統が広域拡散に関与したことが推察された。広域拡散域で収集された、MUS、DOMの遺伝的変異性は比較的高く、広域拡散に関わった祖先系統は遺伝的に多様度の高いものであったことが示唆された。また、毛色関連遺伝子Mc1r座の塩基多様度は、CAS, DOMにおいて周辺遺伝子座よりも低下していることが認められ、このselective sweepの傾向は、毛色の進化過程に自然選択が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の内容で国際誌に成果の公表を行うことができた(Kodama et al., 2015, Biol J Linn Soc)。材料の収集も順調に行われ、特にマダガスカル産ハツカネズミ8個体を得ることができた。この集団はアラビア半島南部の亜種Mus musculus gentilulusに由来する集団とされ、このアラビア半島におけるハツカネズミは、これまで核遺伝子の解析がなされておらず、今後の解析がハツカネズミの自然史全体を理解する上で極めて重要な情報をもたらしてくれるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
マダガスカル産ハツカネズミの遺伝的背景と毛色変異の解析を行う。これにより、アラビア半島南部の野生集団Mus musculus gentilulusの遺伝学的位置づけを間接的に推察する。すなわち、これまで知られている3つの主要な亜種グループが存在するのか、あるいは、これまでの既知の亜種集団の1つの地域個体群として位置づけられるのかについて分子系統学的に結論づけを行う。また、ネパール産Mus属の系統学的類縁性の解析も行う。これにより、Mus cervicolorとして分類学的に位置づけられている種について、分類学的再考察を試みる。これにより、ユーラシア産ハツカネズミ属の過去数百万年間の進化史に関して新規の知見が得られるものと期待される。ミャンマー産ハツカネズミ属の各種(Mus caroli, Mus fragilicauda, Mus nitidulus)における分子系統学的位置づけと毛色変異に関する遺伝的調査を行う。これらの解析結果は、ハツカネズミMus musculusのそもそもの起源地を推察する上で貴重な情報をもたらすものと考える。さらに、日本産ハツカネズミの進化史解明に向け、特定の染色体上の5 Mb枠および1 Mb枠の染色体領域においてハプロタイプ構造解析を行い、その起源地の探索と、近年および有史以前の移入の歴史の推察を試みる。さらにミトコンドリアDNAの4kb配列の解析を行い、一斉放散に関するより詳細な解析を行い、集団動態の時空間把握を行う。これらの解析結果をとりまとめ論文発表を行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年3月に購入した物品の支払が平成27年4月となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記物品の支払のため平成27年4月にすべて使用した。
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