研究実績の概要 |
本年度は、マダガスカル産ハツカネズミ(Mus musculus)の毛色多型に注目し解析を行った。マダガスカル産のハツカネズミは4番目の亜種とされるアラビア半島南部の亜種Mus musculus gentilulusに由来するとされ、当該亜種については、これまでミトコンドリアDNAのcontrol regionの変異に基づく系統学的位置づけしかなされてこなかった。今回、マダガスカル産のハツカネズミを得て、核遺伝子を含めた系統地理学的解析を行った結果、イラン、インド等に分布する南アジア産亜種Mus musculus castaneusに近縁性を示すことが示唆された。ユーラシア大陸に移入した先史時代の人類に随伴して展開する以前の自然集団の分布域において南アラビア半島はMus musculus castaneusの系統との遺伝的交流があったことが理解できた。さらに、ハツカネズミは亜種間内において顕著な毛色多型を示すが、本年度、背側および腹側の双方に毛色多型が認められる集団に着目し、それぞれの責任遺伝子と責任変異領域を明らかにすることをめざした。哺乳類の毛色変異の進化過程にはメラノサイトの色素生産に関与する2つの遺伝子Mc1rとAsipが関わることが多いため、この2つの遺伝子に着目した。毛色多型を示すマダガスカル産ハツカネズミ個体に対し、Mc1rの全コード領域の塩基配列の解析を行ったが多様性はなく、毛色多型性との関連性はないことが示された。一方、Asipの2つのプロモーター領域(Exon 1A, Exon 1B)を解析した結果、Exon 1A領域は腹側の毛色変異との関連性が示され、Exon 1B領域は背側の毛色変異と関連する可能性が示唆された。
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