研究課題
フィリピン南部ミンダナオ島北ダバオデ州ニューコレラ市:日本住血吸虫症の”中度”流行地での調査をおこなった。日本住血吸虫症の流行が認められる代表的なBarangay(人口5000人程度の「村」に相当する行政区)3ヵ所を調査地とした。ヒト、スイギュウ、イヌを対象としたELISA(抗体)検査、糞便(虫卵とStool-PCR [寄生虫DNA])検査、および中間宿主貝を対象とした寄生虫検査をおこなった。その結果、ヒト(230名)での虫卵陽性率は0%、ELISA陽性率は5.24%(SEA抗原)であった。スイギュウ(56個体)での虫卵陽性率は0%、ELISA陽性率は7.02% (Sj1TR抗原)およびStool-PCR陽性率は5.26%であった。イヌ(63個体)での虫卵陽性率は0%、ELISA陽性率は19.05% (SjTPx-1抗原)およびStool-PCR陽性率は4.76%(3/18)であった。また、中間宿主貝の感染率は0.5%(9/1,810)であった。これらの成績から、フィリピン国内南部ミンダナオ島の日本住血吸虫症中度流行地においても、保虫宿主としてスイギュウおよびイヌの重要性が指摘された。今回の住民を対象とした糞便検査で虫卵検出率が0%であることから、この流行地での現在の流行度は”低度-近撲滅レベル”と考察できる。一方、同住民および動物での組換え体抗原を用いたELISAでの抗体陽性率ではともに約10%を越える高めの結果が得られていること、中間宿主貝からもセルカリアが検出されていることを合わせて評価すると、日本住血吸虫の感染環は依然として一定のレベルで維持されているものと考える。これらのことから、日本住血吸虫症の中度流行地においても、保虫宿主での感染状況を監視することが寄生虫の感染環の状況を把握するため重要であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
フィリピン南部ミンダナオ島の日本住血吸虫症の中度流行地において、寄生虫病流行の保虫宿主としてスイギュウおよびイヌの重要性が指摘できた。日本住血吸虫症の中度流行地においても保虫宿主での感染状況を監視することが寄生虫の感染環の状況を把握するため重要であることが示唆された。一方、フィリピン国内で流行度や地理的特性の異なる他の地域でもこの知見を検証する必要があるため。
引き続き、フィリピンの日本住血吸虫症流行地で、新たに開発したELISAプロトコールを応用して保虫宿主候補動物での血清疫学調査をおこない、各流行地で主要な保虫宿主を同定する。同時に、その動物での感染ベースラインデータを整備して、寄生虫病対策の現場に還元することを第一の目的とする。また、中間宿主貝も含めた総合的な分子疫学調査をおこない、各感染症流行地での寄生虫症の特性と寄生虫株の関係を明らかにすることを第二の目的とする。
平成27年1月、フィリピン研究協力者が独自の調査を行い、今年度3月に調査予定のレイテ州において当初予定に加えていなかった村で感染症の流行を見出した。そこで、同地域における詳細な疫学情報を調査するため、この村も調査対象とすることにして、調査計画を変更した。調査準備に追加の時間を要するため、当初の旅行日程を次年度に延期する必要が生じ、その分の使用額が生じた。
このため、同地域における調査及び調査研究を次年度4月に行うこととし、未使用額は、その旅費、資料解析の物品費、人件費・謝金及び、その他として成果報告の費用に充てることにした。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) 備考 (2件)
Parasitology Research
巻: 114 ページ: 1225-1228
doi: 10.1007/s00436-015-4312-7.
http://www.obihiro.ac.jp/~protozoa/index.html
http://www.obihiro.ac.jp/~tryp/index.html