野生動物-ウイルス共進化の解明と新規ウイルス変異予測

2012 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 24405045
• 研究種目: 基盤研究(B)
• 応募区分: 海外学術
• 研究機関: 国立感染症研究所
• 研究代表者: 新井 智 国立感染症研究所, 感染症情報センター, 主任研究官 (80321868)
• 研究分担者: 大舘 智志 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60292041) ; 鈴木 仁 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 准教授 (40179239) ; 川田 伸一郎 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究員 (30415608)
• 研究期間 (年度): 2012-04-01 – 2016-03-31
• キーワード: 共進化 / 系統解析 / ウイルス感染 / 進化予測

研究概要

2012年6月から7月および2013年1月にベトナムで野外調査を実施した。その結果、38種201頭を捕獲し、そのうちHipposideros pomona1頭に新規ハンタウイルスの感染を確認した。新しく発見したハンタウイルスは、H.pomonaを捕獲した地域に因みXuan Son virus(XSV)と命名した。現在までのところ、S segmentの約500塩基およびL segmentの約4600塩基を決定した。得られた配列を基に系統解析を行ったところ、XSVはアフリカ、コートジボアールのバナナアブラコウモリ(Neoromicia nanus)に検出されたMouyassue virus(MOYV)やシオラレオネのキティブタバナコウモリ(Nycteris hispida)に検出されたMagboi virus(MGBV)に近縁であることが明らかになった。今回の結果は、齧歯目由来ハンタウイルス、トガリネズミ形目由来ハンタウイルスに続く新たな自然宿主の発見であり、翼種目もハンタウイルスの重要な自然宿主であることを示す証拠で、ハンタウイルスの進化にはこれまで考えられてきた以上に多くの自然宿主が関与している事実を示すものである。既知のハンタウイルスおよび我々がこれまでに明らかにしてきたトガリネズミ形目、翼種目のハンタウイルスを基に系統解析すると、翼種目についても特定のハンタウイルスに感染している可能性が強く示唆され、翼種目由来ハンタウイルスも翼種目と共進化していることが示唆された。これらの結果は、齧歯目由来、トガリネズミ形目由来、翼手目由来のすべてのハンタウイルスが宿主と共進化している可能性を示唆しており、宿主遺伝子による系統解析を基にウイルス分化の方向性を推定するデータとなりうることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

課題申請時の予想通り、これまで発見されていなかった翼手目ハンタウイルスをベトナムの翼手目から検出することに成功し、我々の仮説は証明されつつあるため。

今後の研究の推進方策

宿主とウイルスが共進化しているという仮説の証明は順調に進んでいるが、実例が少ないためより多くの実例を増やすため、各生物種担当の分担研究者で手分けして野外調査を進めていく予定である。

次年度の研究費の使用計画

ベトナム中部の調査を実施すると共に、ミャンマーやその他数か国で野生動物の捕獲調査を行う予定である。ウイルス保有検査についてもシステマティックな手法を確立しつつあり、作業の効率化を進める予定である。

研究成果

• [雑誌論文] Molecular phylogenetic analysis of Orientia tsutsugamushi based on the groES and groEL genes (2013)
  • 著者名/発表者名: Satoru Arai, Kenji Tabara, Norishige Yamamoto, Hiromi Fujita, Asao Itagaki, Marina Kon, Hiroshi Satoh, Kazuko Araki, Keiko Tanaka-Taya, Nobuhiro Takada, Yasuhiro Yoshikawa, Chiaki Ishihara, Nobuhiko Okabe, and Kazunori Oishi
  • 雑誌名: Vector Borne and Zoonotic Diseases
  • 査読あり
• [雑誌論文] Novel Bat-borne Hantavirus, Vietnam (2013)
  • 著者名/発表者名: Satoru Arai, Son Truong Nguyen, Bazartseren Boldgiv, Dai Fukui, Kazuko Araki, Can Ngoc Dang, Satoshi D. Ohdachi. Nqhia Xuan Nguven, Tien Duc Pham, Bazartseren Boldbaatar, Hiroshi Satoh, Yasuhiro Yoshikawa, Shigeru Morikawa, Keiko Tanaka-Taya, Richard Yanagihara, Kazunori Oishi
  • 雑誌名: Emerging Infectious Diseases 巻: 19 ページ: 1159-1161
  • DOI: 10.3201/eid1907.121549
  • 査読あり
• [雑誌論文] Novel serological tools for detection of Thottapalayam virus, a Soricomorpha-borne hantavirus. (2012)
  • 著者名/発表者名: Mathias Schlegel, Erdenesaikhan Tegshduuren, Kumiko Yoshimatsu, Rasa Petraityte, Kestutis Sasnauskas, Barbel Hammerschmidt, Robert Friedrich, Marc Mertens, Martin H. Groschup, Satoru Arai, Rika Endo, Kenta Shimizu, Takaaki Koma, Shumpei Yasuda, Chiaki Ishihara, Rainer G. Ulrich, Jiro Arikawa, Bernd Kollner
  • 雑誌名: Archives Virology 巻: 157 ページ: 2179-2187
  • DOI: 10.1007/S00705-012-1405-9
  • 査読あり
• [学会発表] Genetic diversity and phylogeography of Asama virus in the Japanese shrew mole (Urotrichus talpoides). (2012)
  • 著者名/発表者名: Satoru Arai, Kimura, T., Asakawa, M., Shannon N. Bennett, Satoshi D. Ohdachi, Keiko Tanaka-Taya, Shigeru Morikawa, Nobuhiko Okabe, Richard Yanagihara
  • 学会等名: XVIII International Congress on Tropical Medicine and Malaria.
  • 発表場所: Rio de Janeiro, Brazil.
  • 年月日: 20120923-20120927
• [学会発表] ウイルスの宿主転換と哺乳類との共進化 (2012)
  • 著者名/発表者名: 新井智
  • 学会等名: 日本哺乳類学会2012年度大会
  • 発表場所: 神奈川県町田市(自由集会)
  • 年月日: 20120920-20120923