研究課題/領域番号 |
24406002
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 昌志 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10281073)
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研究分担者 |
武田 湖州恵 中部大学, 生命健康科学部, 准教授 (80345884)
山ノ下 理 中部大学, 生命健康科学部, 講師 (50424924)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 / バングラデシュ / 疫学 / Placental Growth Factor |
研究実績の概要 |
本研究では、アジア諸国において、飲用井戸水に含まれる元素濃度を測定する環境モニタリング調査およびヒト検体(爪・毛髪・尿等)採取を推進している。当該年度の研究では、当初想定していなかったPlacental Growth Factor(PlGF)分子が、ヒ素誘発皮膚癌の制御に中心的に働いている可能性がでてきたので、PlGFに着目して研究を推進した。まず、バングラデシュの飲用井戸水ヒ素汚染地域と非汚染地域住民の尿におけるPlGF濃度を比較したところ、汚染地域の住民で有意に高いことがわかった。PlGFが発癌誘導に作用していることを示す過去の報告を合わせて考えると、本成果は、飲用井戸水によるヒ素曝露がPlGFの上昇を介して癌を誘発している可能性を示している。本仮説を検証するために、ヒト非癌化角化細胞(HaCaT細胞)とヒト皮膚癌細胞(A431細胞)を用いて、試験管レベルの研究を推進した。HaCaT細胞におけるPlGF 発現レベルは、A431細胞に比較して有意に低いことを確認した後、飲用井戸水に含まれるレベルのヒ素曝露で、HaCaT細胞におけるPlGF 発現レベルが有意に上昇することを示した。次に、HaCaT細胞の浸潤能はヒ素曝露で亢進するものの、siRNAによりPlGF 発現レベルを低下させたHaCaT細胞では、ヒ素による浸潤能の亢進は、ほぼキャンセルされることを示し、細胞におけるPlGF発現レベルが細胞浸潤に関与している可能性を示した。加えて、ヒ素曝露によりHaCaT細胞から分泌されるPlGFの量が増加することを示した。さらに、PlGFの受容体や下流のシグナル伝達分子に着目し、PlGFが皮膚癌を誘発する分子機構を一部解明し、PlGFはヒ素誘発癌に中心的に働く可能性を提案した。一方、光線療法による皮膚癌の予防技術についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来には報告されたいなかったPlacental Growth Factor(PlGF)分子が、ヒ素誘発皮膚癌の制御に中心的に働いていることを証明することで、ヒ素誘発癌の健康リスクを評価できる可能性のある新しい分子を提案できた。さらに、PlGFは、ヒ素誘発癌の予防に有効な分子標的療法である可能性を持っている。以上より、ヒ素誘発癌に対する健康リスク評価と予防に貢献できる可能性のある画期的な分子候補を提案できたので、研究は、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ヒト疫学研究をさらに推進し、ヒ素誘発癌の健康リスクを評価できるバイオマーカとして有効かどうかについて、検討を進める予定である。さらに、短期間での達成は困難であると予想されるが、ヒ素誘発癌の分子標的予防療法の開発を推進したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予想に反し、従来とは異なる分子がヒ素誘発皮膚癌の制御に働いていることが明らかとなった。研究遂行上、この現象の本質を見極めることが重要であることから、有識者との議論を踏まえて研究方式を決定することとなったので、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ヒ素誘発皮膚癌を制御する可能性のある分子に関する解析を推進するために、物品費、旅費、人件費・謝金、その他の項目に使用する。
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