研究実績の概要 |
熱帯地域特異的に発生するパーキンソン病関連疾患は、環境因子と遺伝的素因の両者が発症に関与すると考えられており、環境因子としては現地で摂取する習慣のあるトゲバンレイシなどの熱帯植物などが想定される。一方、遺伝的素因としては、薬物輸送や毒性物質の排出に関与するP糖タンパク質の遺伝多型などが考えられる。 今年度も昨年度に引き続き現地、特にグアムにおいて、研究協力者の協力の下、熱帯植物の分布、現地住民の熱帯植物摂取状況に加えて、熱帯植物中の神経毒性を有するベンジルイソキノリン誘導体と疾患との関連について調査を継続して行った。 一方、熱帯植物バンレイシ科トゲバンレイシよりこれまでに単離同定した種々の化学物質の中から、神経毒性の強い物質について更なる検討を行った。着目したベンジルイソキノリン誘導体 の中でもO,O-dimethylcoclaurineは、in vitro反転腸管法においてP糖タンパク質により取り込まれ、ヒトP糖タンパク質の基質になることが明らかとなった。そこで、O,O-dimethylcoclaurineを化学合成し、C57BLマウスに投与したところ、行動異常などの神経毒性が認められた。 O,O-dimethylcoclaurineに限らず、1位がベンジル基、特にメトキシベンジル基に置換された誘導体は、P糖タンパク質の基質となる化合物が多く、神経細胞死誘導活性も強力であることを明らかにしたことから、O,O-dimethylcoclaurineおよび化学構造類似のベンジルイソキノリン化合物の摂取が、当該疾患の環境要因のひとつとなっている可能性が考えられる。
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