研究課題
基盤研究(B)
薬の作用と遺伝子多型等のゲノム情報を結びつける事により、特定の患者における薬剤応答性を予測する為の研究分野であるファーマコゲノミクスが進展し,個々の患者に合った薬を適切に使い分けることが可能になりつつある。理化学研究所はタイ保健省との共同研究により、抗HIV薬の副作用に関連する遺伝子の、また、東大人類遺伝学教室は日本人におけるC型肝炎の治療効果に関連する遺伝子同定の実績を持つ。本研究は、世界三大感染症の一つであり、日本国内においても未だ大きな公衆衛生上の課題である結核症に対し、ゲノムワイドな手法による結核症感受性遺伝子探索を継続すると共に、その研究基盤を活用し結核治療薬による副作用と治療効果に関連する遺伝子の探索をアジア人集団において進める。平成24年度は、基盤とする結核症感受性遺伝子探索において45歳未満でHSPEPI-MAFB遺伝子近傍遺伝子座20q12を同定し、論文[J Hum Gene 2012 ; 57(6) : 363-367]と日本人類遺伝学会シンポジウムで報告した。平行して、副作用を関連した遺伝子の為のサンプル収集を進めた。日本では、オーダーメイド医療プロジェクトに参加して結核患者の臨床データベースが確立されている複十字病院にて、重複しない252症例で同意を基に収集した。日本人類遺伝学会で検査残余検体を活用して被験者に負担がかからない様にしている進行状況と本コホート検体の初期の肝障害発症者24名と未発症者93名で、抗結核薬による人種を超えて肝障害に関連が有意差に認められるPositive Controlと考えられるNAT2遺伝子のハプロタイプ解析を試行したところ、発症者でSlow acetylatorsが16.7%(4/24)と未発症者の2.2%(2/93)と比してオッズ比9.1(95%信頼区間1.56-53.2)と有意に高く、有用な検体と考えられる事を報告した。タイでは、タイ国のチェンライ県のフィールドより薬剤副作用の報告された症例を抽出すると共に、タイ保健省の副作用サーベイランス・システムを補完的に活用して収集を進めている。
2: おおむね順調に進展している
これまで作成してきた研究基盤を活用しているので、研究進行がスムースである。日本では、(公財)結核予防会複十字病院と(独)理化学研究所横浜研究所の研究倫理委員会の承認後、東京大学倫理委員会で2011年3月10日承認済み。タイ側の倫理委員会を2012年10月19日に通過後、タイ側のサンプルの使用を東京大学のプロトコールに追加した軽微な変更として2013年2月4日に通過している。更に、血液検体の国際的な移動が問題とならない様に、Material Transfer Agreement(MTA)を結び、Biosafety、出入国上の正規の手続きを踏み日本への検体移動を進めており、国際共同研究でしばしば見られる研究進行が計画通り進まないリスクはない。
研究計画に従い一次スクリーニングの為のサンプル収集を完了させる。ゲノム薬理学の既知の知識に基づく候補遺伝子アプローチによって、NAT2以外のイソニアジド、ピラジナミドおよびリファンピシンの薬物動態関連遺伝子について関連解析を実施する。HLA-A,HLA-B,HLA-C,HLA-DPBI,HLA-DQBlとHLA-DRBl等のHLA遺伝子の関連解析、未知の遺伝子を探索する為のゲノムワイド関連解析実施も実施する。また、一次スクリーニングで同定された関連遺伝子の確認の為のReplicationサンプルの収集を継続する。
すべて 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)
Journal of Human Genetics
巻: 57巻(6) ページ: 363-367
10.1038/jhg.2012.35.