研究課題/領域番号 |
24406010
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応募区分 | 海外学術 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
徳永 勝士 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40163977)
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研究分担者 |
莚田 泰誠 独立行政法人理化学研究所, その他部局等, グループディレクター (40392146)
野内 英樹 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (60437845)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アジア系集団 / 人類遺伝学 / 結核 / 薬剤副作用 / 薬剤応答性 / 国際情報交換 / タイ / 日本 |
研究概要 |
薬の作用と遺伝子多型等のゲノム情報を結びつける事により、特定の患者における薬剤応答性を予測する為の研究分野であるファーマコゲノミクスが進展し,個々の患者に合った薬を適切に使い分けることが可能になりつつある。理化学研究所はタイ保健省との共同研究により、抗HIV薬の副作用に関連する遺伝子の、また、東大人類遺伝学教室は日本人におけるC型肝炎の治療効果に関連する遺伝子同定の実績を持つ。本研究は、世界三大感染症の一つであり、日本国内においても未だ大きな公衆衛生上の課題である結核症に対し、ゲノムワイドな手法による結核症感受性遺伝子探索を継続すると共に、その研究基盤を活用し結核治療薬による副作用と治療効果に関連する遺伝子の探索をアジア系集団において進めている。 平成25年度は、副作用を中心とした薬剤関連遺伝子検索の為に検体と臨床情報を必要数収集した。具体的には、我々の研究チームが参画してきたタイ国のチェンライ県病院と胸部疾患研究所病院より結核患者症例を109例収集した。その中の38例に対しては、詳細に薬剤血中濃度を測定している。薬剤性肝障害(DIHI: Drug-induced hepatic injury)の症例はこの2病院からの44例の他にタイ保健省が運営する副作用サーベイランス・システムに参加している10病院の倫理委員会の承認が得られ検体収集が進行している。 本研究の基盤となる結核症感受性遺伝子探索やタイ人におけるヒト白血球抗原(HLA)遺伝子解析を進め、HLA遺伝子型と結核症との関連が結核菌体型毎に異なる事を米国人類遺伝学会で、タイ人におけるHLA遺伝子とハンセン氏病の関連を2013年国際ヒトゲノム会議で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで作成してきた研究基盤を活用し、国際共同研究でしばしば見られる研究進行が計画通り進まないリスクは少ない。昨年度報告した様に、複十字病院、(独)理化学研究所横浜研究所の研究倫理委員会、東京大学倫理委員会、タイ側倫理委員会の全て承認が得られて進めている。 薬剤性肝障害(DIHI)の症例収集が困難で若干遅れていた点は、タイ保健省薬剤副作用サーベイランスに報告されている症例からの抽出で補完される見通しである。イソニアジド(INH: isoniazid)、リファンピシン(RFP:refampicin)、ピラジナミド(PZA:pyrazinamide)の抗結核薬主要3剤が上位を占め、エタンブトール(EB: ethambutol)やこの4剤の合剤を含めると2001年1月1日よりの10年間で報告されている3.937例の薬剤関連肝障害の内、2,822例(71.7%)を占めている。 網羅的なゲノムワイド研究を含む遺伝子研究の進行には、コストと機器が必要なため、タイ国保健省医科学局は継続的に東京大学や理化学研究所ゲノム解析センターと共同研究を実施している。倫理面で、血液検体の国際的な移動が問題とならない様に、Material Transfer Agreement (MTA)を結び、Biosafety、出入国上の正規の手続きを踏み日本への検体移動をしてきた経験があり、それに基づき本研究のタイの検体の移動も初期サンプルに関しては完了している。十分な検体数が揃い次第、ハイスループットな解析を開始する。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、収集サンプルの解析を進める。N-アセチルトランスフェラーゼ(NAT2)遺伝子との関連は確立しており、日本のサンプルで確認できた様に陽性コントロールとして活用する。ゲノム薬理学の既知の知識に基づく候補遺伝子アプローチによって、NAT2以外のイソニアジド、ピラジナミドおよびリファンピシンの薬物動態関連遺伝子について関連解析を実施する。HLA-A, HLA-B, HLA-C, HLA-DPB1, HLA-DQB1とHLA-DRB1 等のHLA遺伝子の関連解析、未知の遺伝子を探索する為のゲノムワイド関連解析実施も実施する。 同定された関連遺伝子の確認の為のReplicationサンプルの収集を継続する。タイのサンプルのみならず、日本にて同様のプロトコールでサンプルを(公財)結核予防会複十字病院から収集している。年間200例の収集が可能で既に344例収集されているので、タイに先行して薬剤関連遺伝子の同定を始める。再現性(Replication)の検討には、日本のサンプルのみならず、インドネシアのサンプルも活用できる様にSEAPharm(Southeast Asian Pharmacogenomics)のネットワークを活用し準備が進んでいる。 薬剤応答性関連遺伝子は、理想的には長期コホート研究が必要なので実施される事は極めて少ない。タイ国チェンライ県では、1987年から電子化された結核サーベイランス・システムを維持しており、1996年からは菌体、2002年からは血液検体の保存を実施している。菌体側の解析で、タイに多いEAI株が日本に多い北京株や他の菌株群に比較して結核発症後の1年生存率を下げる危険因子であると同定されているので、それとの相互作用も含めて解析を検討する。
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