研究課題
トリクロロエチレンによる、重症薬疹に酷似し生命に危険が及ぶ全身性皮膚・肝障害が中国で多発している。発症率は作業者数百人から千人に1人であり、患者は発熱や好酸球増多を伴い、曝露開始から発症までの期間は約1か月、ヒトヘルペスウイルス6型が再活性化することが多い等の特徴を呈する。従来の労働衛生対策では発症の完全予防は困難で、個人の発症・重症化リスクをより正確に評価できる方法の確立が求められている。平成25年度にはこれまでに得られたデータの検証と不十分であった情報の取得、前年度までに明らかになっていた課題への取組を行った。発症者の皮膚病型分類について再評価を行い、重症薬疹としての過敏症症候群との比較可能性が担保された。発症者の曝露量との関連については前年度に引き続き解析を進めた。その結果、属性情報と解析に必要な情報がそろった患者29名(年齢24.3±6.5歳、男性19名、女性10名)、曝露対照者79名(年齢24.1±6.0歳)について、HLA-B*13:01遺伝子多型非保持者で作業終了時の尿中トリクロロ酢酸(TCA)濃度が50mg/L未満を参照カテゴリーとした場合のオッズ比(OR)は、「多型あり」かつ「TCA50mg/L未満」でOR8.5(95%CI 1.4-51.2)、「多型なし」かつ「TCA50mg/L以上」でOR24.1(95%CI 4.2-137)、「多型あり」かつ「TCA50mg/L以上」でOR147(95%CI 22.5-955)であった。また、曝露対照者、非曝露対照者について血清IL-10およびTNF-αの測定を行ったほか、患者と曝露対照者の血清を使用して、抗CYP2E1抗体の免疫沈降法による検出を試みた。これらの結果と今後の研究実施計画について、海外共同研究者、研究分担者、連携研究者、研究協力者とともに討論を行った。
2: おおむね順調に進展している
HLA-B*13:01遺伝子多型と尿中トリクロロエチレン代謝物量が皮膚・肝障害の発症のリスクに与える影響が定量化され、学会発表演題として出題した。血清サイトカイン量の定量については、曝露対照者、非曝露対照者について新たなデータを追加できた。血清中のチトクロム2E1についても免疫沈降法による検出が可能となった。患者の発生数は減少しており、新たな患者データの収集は困難になってきているが、これは、この国際共同研究の進展により成果が対策に活かされている、すなわち曝露管理が進められている側面が大きいと思われる。研究実施上、この点については計画申請書に記載したとおり、過去に収集した生体試料を研究に用いることにより適切に対処できている。
遺伝子環境相互作用のリスクの定量化という目標は達成されつつあるが、患者群および対照群の性・年齢のマッチングが、フィールドの制約により理想的とはいえない状況にある。この点を少しでも改善するためには、対照者のデータをさらに取得する必要がある。海外共同研究者を今年度招聘して測定を共同で行うなど、サンプルサイズをできるだけ大きくするための努力を続けたい。
患者群および対照群の性・年齢のマッチングに関して、フィールドの制約により限界があることが判明し、一部を次年度に繰り越したため。サンプルサイズを大きくするために、過去に収集した生体試料をよりひろく利用する方向で使用する試料を同定し、その上で必要な測定を行なう。
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