本研究は、理論計算機科学分野において最も挑戦的な課題の一つである、計算困難性の証明手法の開発に向けて、計算機援用による数理計画的解析を深く活用したアプローチにより迫ることを目的としたものである。 最終年度に当たる今年度は、機械学習等で用いられるしきい値素子を用いた論理回路モデルを重点的に取り上げ、これに関する計算困難性の解明に重点をおき研究を行った。特に、多項式しきい値表現と呼ばれるモデルにおける、次数、重さ、および、表現長といった重要な複雑さの尺度について、与えられた論理関数とその入力独立な排他的論理和の複雑さの関係について解析を行った。解析に際しては、整数計画ソルバを用いて具体的仮説を得たのち、これを理論的枠組みの中で定式化するといった、本研究で訴求したアプローチに沿って研究を行った。その結果、重さや表現長の尺度のもとでは、従来予想されていたものとは異なる振る舞いが生じることを明らかにすることに成功し、この結果を国際会議LATAにおいて発表し評価を得た。 研究期間全体を通じて、通信計算量やしきい値論理回路等いくつかの重要な計算モデルに対して、クリーク対独立点集合や充足可能性判定問題等の具体的問題に対する計算困難性の解析手法の開発に成功した。また、空間の最疎充填問題等の離散数学的問題についても新たな結果を得た。その多くは、本研究で重点的に追求し開発した、計算機援用形の証明手法によるもので、本研究独自の成果と言える。これらはこれまでに8編の論文として、国際論文誌、および、国際会議の場において発表を行った。一方、本研究を通じて、理論計算機科学分野の最重要な未解決問題であるP vs. NP問題攻略の難しさがよりいっそう浮き彫りになったとも言え、これを踏まえたアプローチを探索することが今後の課題と言える。
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