研究課題/領域番号 |
24500011
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
山上 智幸 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80230324)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 制約充足問題 / 最適解近似アルゴリズム / 多項式時間 / 近似保存還元性 / Holant問題 / #P完全 |
研究概要 |
制約充足問題は、一般に、多変数に関する「制約条件」を全て満たす「解」についての問題であり、本研究では特に、ブール変数を持つ制約充足問題の最適解を近似的に求めるアルゴリズムの効率を議論する。この研究成果は多くの実用的な制約充足問題への応用が見込まれている。 本研究の遂行には、まず近似解を求める効率的アルゴリズムが存在する制約条件の種類を明確にする必要がある。初年度(2012年度)の研究では、これまでの研究成果に基づいて、まず、「重み付き制約充足問題」の解の総数を近似的に求める高速アルゴリズムが存在する制約条件の種類を考察した。これまで、正の有理数の値をとる制約条件についての結果が知られていたが、本研究では制約条件の取れる値を複素数まで拡張した。特に今回は、一変数に関する制約条件を全て使用可能とする仮定(このような問題は「保守的な制約充足問題」と呼ばれる)の下で、複素数値を取りえる制約条件を有する制約充足問題について、その解の総数を近似的に求める多項式時間アルゴリズムが存在するために制約条件の満たすべき必要十分条件を決定し、この条件を満たさない制約充足問題は全て「#P完全」になることを証明した。ここで #P完全とは、効率的な方法では解が得られないことを意味している。更に、各々の制約条件がk変数(「次数」と呼ばれる)しか使用しない特別な状況下では、次数3以上の制約充足問題は全て次数3の場合に帰着されることを示した。これらの結果に引き続き、保守的でない制約充足問題について考察した。これは長らく未解決の問題であり、本研究では制約条件が実数値を取りまた「対称形」である場合について、制約充足問題の解の総数の効率的な近似アルゴリズムが存在するために制約条件が満たすべき必要十分条件を示した。この結果によって、現実の制約充足問題を取り扱うソフトウェア開発が今後容易になることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、現実世界で重要な制約充足問題の解を求めるアルゴリズムの効率に関する研究であり、研究初年度に計画していた実数値制約条件を持つ制約充足問題の数え上げに関する証明技術の分析と改良を行った。その結果、制約条件の種類を分類するための基礎的な証明技術が格段に向上した。この技術は今後の研究に必要不可欠なものである。今年1月には、ドイツのダグスツールで開催された数え上げ計算論の知識者会議に招かれ、本研究で得られた数え上げ制約充足問題の成果についての招待講演を行った。また2月には、リバプール大学の Goldberg 教授の下を訪れ、彼女の研究グループと短期間ではあるが一緒に研究活動を行った。これは、今後の研究協力への道を開くと共に、本研究の更なる推進に繋がることが期待される。以上の理由から、研究は滞りなく順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
一般に、制約充足問題は多変数の「制約条件」を満たす解に関する問題を指す。解の中でも特に「最適解」を近似的に求めるアルゴリズムの効率についての研究の歴史は新しく、1995年になってCreignou が統一的な研究を開始し、2001年には漸くKhannaらが効率の良い近似アルゴリズムの構築に必要な制約条件の種類に関する包括的な分類結果を得た。しかし、こうした結果は未だ現実的な視点からは不十分であり、より精巧な制約条件の分類が望まれている。最適化問題とは多少異なるが、全ての制約条件を満たす解を求める制約充足問題については既に、Allenderらが2009年に精密な分類の研究を行っている。 本研究では、ブール変数に関する制約条件を取り扱い、特にMaxCSPと呼ばれる最適化制約充足問題に焦点を当て、(i) 制約条件の種類と効率の良い近似アルゴリズムとの相互関係を考察し、(ii) 近似アルゴリズムが高速化可能となる制約条件の種類を特定することを目指す。また、(iii) 効率の良い汎用性のある近似アルゴリズムも併せて設計する。これらの結果は、現実に存在する最適化問題の解法ソフトウェア開発への重要な指針となり、更に開発コストの大幅な削減にも繋がると期待される。 本研究目標を達成するために、まず今ある最適化問題の枠組みを新しい視点から再構築する。こうして得られた新しい枠組みの中で、制約条件の精度の高い分類を執り行う。また、アルゴリズムの効率に関しても、単に実行時間のみならず、記憶容量や並列計算量なども用いて、より詳細な効率の分析を行う。現実の問題は一般に、非ブール値を取る制約条件(「重み付き制約条件)と呼ばれる)を取り扱っている。そこで、研究の範囲を重み付き制約条件を持つMaxCSPに拡張し、効率の良い近似アルゴリズムの開発と分析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、海外での研究活動が予想以上に進んだが、計算機などの電子機器の購入が3月末までに完了しなかった。従って、次年度では、新しい計算機などを購入し研究の効率を上げる。図書の購入に関しては、最適化問題の専門書やコルモゴロフ計算量や確率的アルゴリズムなどの専門書の購入を予定している。また、専門誌掲載の論文の電子版のコピーを取得するための予算を計上している。本研究で計画しているアルゴリズム開発に関しては、アルゴリズムの効率をテストするために、実際に計算機プログラムを作成し動作テストを行う。そのために、プログラム製作の補助に数名の学生を雇用することを予定している。研究成果の公表のために、次年度は2回の国際会議での成果発表を計画している。現在予定している渡航先は、イギリスとフランスである。また、国際会議では、海外の専門家と意見交換をし、今後の研究の糧とする。
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