研究課題/領域番号 |
24500017
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
森田 憲一 広島大学, 工学(系)研究科(研究院), 名誉教授 (00093469)
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キーワード | 可逆計算機構 / 可逆論理素子 / 可逆論理回路 / 可逆チューリング機械 / 可逆セルオートマトン |
研究概要 |
可逆コンピューティングは、ミクロなレベルの物理的可逆性を反映した計算パラダイムであり、将来、分子・原子レベルの物理現象を直接利用した計算機デバイスやシステムを開発する際の鍵となる。このような視点から、平成25年度は、可逆論理素子、およびそれから構成可能な可逆チューリング機械、可逆セルオートマトンなどの計算モデルを理論的に研究し、以下の成果を得た。これらの結果は可逆性制約を付加しても各計算モデルが依然として高い計算能力を有することを示している。なお、下記1の成果は雑誌論文として印刷中、2と3は雑誌論文または国際会議論文として投稿中である。 1.可逆論理素子の万能性(任意の可逆順序機械を構成できる性質)の解明: 2状態つまり1ビットの記憶をもち入出力記号数が3以上の可逆論理素子がすべて万能になることは、以前に証明を与えたが、本年度は、4種の2状態2記号可逆論理素子の内、3種の素子が非万能となることの厳密な証明を与え、さらに3種類の2記号素子から任意に2つの組合せを選んでも万能となることを示した。 2.記憶領域が限定された計算モデルにおける可逆性と決定性: 昨年度、記憶領域がS(n) (nは入力長)に制限された決定性チューリング機械の計算能力が、可逆性制約を課して下がらないことを示す簡潔な証明を与えたが、本年度は、可逆的で非決定的なモデルの能力について研究し、これが可逆的で決定的なモデルでシミュレートできることを示した。 3.ある種の並列処理システムである可逆セルオートマトンによる形式言語の認識: 記号列集合(形式言語)を認識する可逆セルオートマトンのモデルを定式化し、その認識能力を研究した。この結果、可逆性制約を付加しても認識能力が下がらず、非可逆なモデルと等価になることを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の研究計画調書には平成25年度以後の研究計画として次の5つの研究項目を挙げた:(i)記憶つき可逆論理素子の万能性の解明と有用な素子の発見、(ii)計算万能な可逆システムの単純化、(iii)種々の可逆計算システムのモデルとその計算能力の解明、(iv)可逆コンピューティングのための斬新なアーキテクチャの開発、(v)可逆コンピューティングの理論の体系化。まず、(i)については2状態2記号可逆論理素子3種類の非万能性を証明し、未解決の1素子を除き、2状態可逆論理素子万能性/非万能性がほぼ解明され、研究が順調に進展した。(ii)については現在、万能可逆チューリング機械、および計算万能性を有する可逆的保存的セルオートマトンをどれほど単純化できるかの研究を行っており、成果をまとめつつある。(iii)については記憶領域が制限された可逆的非決定的チューリング機械、および可逆セルオートマトンの形式言語受理能力を研究し、それぞれ決定的で非可逆なモデルと等価にあることを証明し、現在、成果を投稿中である。(iv)はロータリー素子と呼ぶ2状態可逆論理素子以外の素子による可逆計算機構の構成法の研究を進めており、現在、成果を投稿中である。(v)については、可逆コンピューティングの理論を詳細に記述した英文単行本を平成27年頃に出版予定であり、現在、執筆を進めながら理論の体系化を進めている。なお、本年度に出版・発表した研究論文は多くはないが、この期間に挙げた成果は、現在、数編の論文として投稿中または執筆中で、26年度に発表の見込みである。以上、解決すべき問題やさらに研究すべき課題も残されてはいるが、各研究項目について順調に研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの達成度」に記載の研究項目(i)-(v)は今後も継続して取り組む。(i)において未解決の2状態2記号可逆論理素子1種類については非万能であると予想しており、その証明に取り組む。(ii)については、万能可逆チューリング機械と計算万能な可逆的保存的セルオートマトンがどれほど単純化できるかを引き続き研究する。(iii)は、可逆セルオートマトンによる形式言語認識に加えて、チューリング機械における可逆性、決定性、対称性、といった互いに関連する諸性質の関係を系統的に研究する。(iv)については、ロータリー素子以外の2状態素子による可逆計算機構の新しい構成法の研究を継続するが、特に、より単純な3記号可逆論理素子、および2記号可逆論理素子の組合せによる簡潔な構成法を探る。(v)については、個々の可逆計算モデルの性質の解明にとどまらず、ミクロからマクロに至るいくつかのレベルの可逆計算機構の相互関係の解明を含めて理論の体系化を行う。つまり、ミクロなレベルのモデルである可逆的な物理的システムに基づく計算機構(ビリヤードボールモデルなど)から可逆論理素子がどのように実現できるか、可逆論理素子によって可逆論理回路をどのように構成できるか、そして、マクロなモデルである可逆チューリング機械などがどのように可逆論理回路として簡潔に実現できるかを明らかにする。理論の体系化の成果は、平成26年度中に英文単行本の原稿としてとりまとめ、平成27年の出版を目指す(既にSpringer-Verlagと出版契約を交わしている)。
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次年度の研究費の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」に記載した項目(iv)に関して、ロータリー素子と呼ぶ可逆論理素子以外の素子で可逆計算機構を簡潔に構成できるもの(4-31の番号をもつ素子)が見つかり、その研究を26年度も継続して行う必要が生じたためである。この種の研究は欧米でも注目度が高いため、次年度使用額をつかい、26年度のなるべく早い時期に成果を国際会議で発表できるように研究を進めている。 与えられた非可逆な(従来型の)計算機構をもとに、それをシミュレートする可逆計算機構(可逆論理回路や可逆セルオートマトンなど)の自動構成を行うことや、種々の可逆計算機構のシミュレーションを行うことによる、理論的成果の検証は、現有のパーソナルコンピュータを使用して遂行する。従って、そのための消耗品費(外付けハードディスク、プリンタ・インク等)として約120,000円を使用する予定である。また、研究成果発表と情報収集のための国内および外国出張旅費を470,000円と、国際学会の参加登録費を80,000円見込んでいる。
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