可逆コンピューティングは、物理的な可逆性を反映した計算パラダイムであり、将来、分子・原子レベルの物理現象を直接利用した計算機デバイスやシステムを開発する際の鍵となる。このような視点から、平成26年度は、可逆論理素子によって可逆チューリング機械や可逆順序機械がどのように構成できるかという問題、および万能可逆チューリング機械の記述複雑度をどれだけ小さくできるかの問題を研究し、以下の成果を得た。なお、これらを含めて過去20数年間の研究成果を体系化し、記述した英文単行本の執筆も並行して進めた(出版契約はSpringer Japanと交わしており、平成27年度中の出版を目指している)。 1.2状態可逆論理素子に基づく可逆計算機構の構成法: 4つの入出力をもつ2状態可逆論理素子の1種であるロータリー素子による可逆チューリング機械の構成法は過去に示したが、これより簡潔な構成法を与えるとともに、31番素子と呼ぶ他の4入出力素子によっても可逆チューリング機械と可逆順序機械が簡潔に構成できることを明らかにし、この種の素子の有用性を示した。さらに、2または3の入出力をもつ素子による構成法も与えた。 2.小サイズの万能可逆チューリング機械の構成法: 万能チューリング機械の状態数と記号数をどれほど少なくできるか、つまり計算万能性を有する最小の複雑度をもつ機械の研究は重要で、長い歴史がある。本年度の研究により、24状態4記号と32状態3記号の万能可逆チューリング機械が構成可能であることを示した。また、任意のm状態n記号可逆チューリング機械を、4状態および2状態の可逆チューリング機械に変換できることを証明した。従って、3状態と4状態の万能可逆チューリング機械が存在する。
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