研究課題/領域番号 |
24500022
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
関川 浩 東京理科大学, 理学部, 教授 (00396178)
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研究分担者 |
白柳 潔 東邦大学, 理学部, 教授 (80396176)
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キーワード | 代数方程式 / 根 / 凸包構成 / 誤差 / 近似 / 数値数式融合計算 / 安定化理論 |
研究概要 |
代数問題について、着目している性質(実根の数など)が、係数の誤差が十分小ならば確定する場合を安定な場合、そうでない場合を不安定な場合と呼ぶことにする。研究実施計画において設定した課題1は、問題が安定か否かを見極め、安定な場合には安定性解析(着目している性質が保たれる係数の変動限界の解析)の問題を設定し、不安定な場合は問題に適切な解釈を与えて、解答が確定する新しい問題を設定することであり、課題2は、課題1で設定された問題を解くアルゴリズムを構成すること、課題3は、課題2で構成したアルゴリズムを安定化理論などを用いて効率化すること、であった。 本年度は課題1に関して明確な進展はなかったものの、課題2,3に関しては以下の成果を得た。 まず、課題2に関わる成果を挙げる。1.昨年度に引き続き取り上げた、式と変数の数が等しい場合の連立代数方程式に関し、昨年度末に与えた課題2を解くアルゴリズムの根拠を完全に証明した。2.最小包囲正方形問題(与えられた点をすべて含む最小の正方形を求める問題)にある種の制限を付けたものを解くアルゴリズムを提案した。2の結果を用いると、複数の1次方程式から一番近く、指定された解を持つような1次方程式を求めるアルゴリズムが構築できる。制限を付けた最小包囲正方形問題を高次元へ拡張し、それを解くことができれば、代数方程式が2次以上の場合にも同様なアルゴリズムを構築できることも示した。 次に、課題3に関わる成果として、課題3における主要な計算手段である安定化理論について、その利用法の一つであるISCZ法(計算履歴を利用して正確な出力を得る手法)を凸包構成に適用した実験結果を整理し、どのような場合に有効であるかを国際会議において発表した。 また、ある種の量子フーリエ変換アルゴリズムの構成の一部に本研究の成果を利用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の予定は、1.式と変数の数が等しい連立代数方程式に対し、その解の数を保つような係数の変動の限界を求める問題、2.変数の数より方程式の数が多い過剰決定の連立代数方程式で解を持たないものが、どれくらい係数を変動させると解を持つようになるか、その係数の変動限界を求める問題(両者に関係があることはすでに示している)の研究を進めつつ、それをグレブナ基底の立場から見て、近似グレブナ基底をどのように定義し計算すべきか、を考察することであった。 これに対し、近似ブレブナ基底の定義、計算には至らなかったが、1の問題そのものに対しては、昨年度提案したアルゴリズムの根拠に完全な証明を与えた。さらに、関連する問題として、複数の代数方程式から一番近く、指定された根を持つような代数方程式を求めるアルゴリズムに関し予備的な結果を得た。また、近似因数分解に利用可能な、与えられた因子を持つ実係数多項式列の性質を複素数係数の場合に拡張した結果が雑誌論文に採録となった。さらに、本研究で重要な計算手段である安定化理論に関する結果を、国際会議において発表した。 このほか、ある種の量子フーリエ変換アルゴリズムの構成の一部に本研究の成果を利用し、また、項目「数値数式融合計算」の執筆を担当した書籍「応用数理ハンドブック」が出版された。 以上より、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成25年度末に予備的な結果を得た、複数の代数方程式から一番近く、指定された根を持つような代数方程式を求める問題については、課題2の完全な解決、すなわち、代数方程式が2次以上の場合も扱えるアルゴリズムを構築し、さらに、課題3,すなわち、安定化理論などを用いてアルゴリズムの効率化を目指す。 式と変数の数が等しい連立代数方程式の安定性解析の問題については、計算機実験によりアルゴリズムの性能を調べ、合わせて、課題3の安定化理論などを用いたアルゴリズムの効率化を目指す。 連立代数方程式を解くとき、解の個数のみに注目すれば、式と変数の数が等しいときはほとんどの場合、連立代数方程式は安定、すなわち、係数をわずかに動かしても解の数が変わらない。このことから、対象とする連立代数方程式の各係数に誤差がないと考えて、グレブナ基底計算その他により方程式を解きやすい形に変形したとき、元の代数方程式において解の個数を保つ係数の変動限界と、変形後の代数方程式におけるそれとの間にはどのような定量的な関係があるかを調べることを予定している。これは、応用上、係数に誤差のある連立代数方程式を解く場合に有用な情報といえる。 さらに、解の個数だけではなく、グレブナ基底の構造(各方程式に対する、係数がゼロではない項の集合)も保つような係数の変動限界を求めることも目標とする。理論上は、元の代数方程式に対する包括的グレブナ基底が分かればこの変動限界は計算可能だが、包括的グレブナ基底を求めるアルゴリズムは計算量が大きいので、変動限界をそれよりも少ない計算量で直接求めることができれば有用であるとともに、元の代数方程式に対するグレブナ基底と係数の変動限界を合わせたものを一種の近似グレブナ基底と呼ぶことができるのではないか、と考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
白柳に次年度繰越金10,285円の生じた理由は、参加する予定であった国内研究集会Risa/Asir Conference 2014(神戸大学)に、所属機関の業務と重なり参加できなくなったためである。 平成26年度に使用する研究費のうち、主だったものは以下の予定である。まず、平成25年度末から平成26年度初めに得た研究成果を、上海(中国)で7月に開催される国際会議International Workshop on Symbolic-Numeric Computation 2014およびワルシャワ(ポーランド)で9月に開催される国際会議International Workshop in Computer Algebra in Scientific Computing 2014にて発表するための外国旅費、会議参加費として使用する。 また、情報収集、研究者との議論、平成26年度中に得た成果の発表などのため、国内で開催される学会、研究会に参加するための旅費として使用する。
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