代数問題について、着目している性質(実根の数など)が、係数の誤差が十分小ならば確定する場合を安定な場合、そうでない場合を不安定な場合と呼ぶことにする。研究実施計画において設定した課題1は、問題が安定か否かを見極め、安定な場合には安定性解析(着目している性質が保たれる係数の変動限界の解析)の問題を設定し、不安定な場合は問題に適切な解釈を与えて、解答が確定する新しい問題を設定することであり、課題2は、課題1で設定された問題を解くアルゴリズムを構成すること、課題3は、課題2で構成したアルゴリズムを安定化理論などを用いて効率化すること、であった。 本年度は課題1に関して明確な進展はなかったものの、課題2,3に関しては以下の成果を得た。 課題2に関する成果として、前年度に得た成果を拡張し、最小包囲超立方体問題(与えられた点をすべて含む最小の超立方体を求める問題)にある種の制限を付けた問題を解くアルゴリズムを提案し、それを利用して、複数の代数方程式から一番近く、指定された解を持つような代数方程式を求めるアルゴリズムを構築した。 課題3に関する成果として、課題3における主要な計算手段である安定化理論について、最短ベクトルのアルゴリズムに適用した実験結果を整理し、係数が無理数である場合の有効性を確認した。また、安定化理論の利用法の一つであるISCZ法(計算履歴を利用して正確な出力を得る手法)については、履歴保存と実数への復元のための新しい手法を提案し、一変数代数方程式の実数解を数え上げるスツルムのアルゴリズムや一般逆行列を求めるグレビルのアルゴリズムに適用し、その有効性について検証した。
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