研究課題/領域番号 |
24500042
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中西 恒夫 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 准教授 (70311785)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | プロダクトライン / 派生開発 / 導入障壁 |
研究概要 |
今日の組込みシステム開発のほとんどは派生製品の開発である。派生製品開発における品質,コスト,工期の改善ではソフトウェア資産の再利用が鍵となる。製品間でのソフトウェア資産再利用のパラダイムとしてプロダクトライン開発方法論(SPL: Software Product Line)が国内で注目されて久しいが,SPLは開発プロセスや組織の再構築,既存資産の全体理解を要し,常に導入障壁が問題となる。一方,産業界では,派生製品開発のプロセスとしてXDDP(eXtreme Derivative Development Process)が注目され,多くの導入事例が報告されている。XDDPでは,既存資産のうち変更に関わる部分についてのみ理解し,変更要求仕様書を作成し,派生製品を開発すべく設計,実装の変更と追加を進める。SPLでは製品間で共有するコア資産の組み合わせで派生製品を開発するのに対し,XDDPにはコア資産の概念がなく現有製品の改変で派生製品を開発する。XDDPは派生開発の繰り返しに伴う,複雑さの増大やアーキテクチャの崩壊には対応できる技術ではない。 そこで2012年度は,導入障壁の低いXDDPによる派生開発を繰り返し,既存資産の部分理解を重ね,既存資産からのコア資産発掘を進め,XDDPによる派生開発→SPLの部分的導入→SPLの全体的導入に至るプロセス,XDDP4SPLを提案した。XDDP4SPLによるXDDPからSPLへの移行途上での派生製品開発においては,SPLとXDDPの異なる開発パラダイムが併存し,ソフトウェア資産については全体理解がされている部分と部分理解に留まっている部分,コア資産化されたものとされていないものとが混在する。そのためXDDPからSPLへの移行およびコア資産の管理が重要となる。そのため,フィーチャ概念に基づくXDDPからSPLへの移行管理の方法論も提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2012年度は,1)トップダウンフィーチャモデリングとボトムアップフィーチャモデリングの統合,2)ボトムアップアーキテクチャ構築ならびにコア資産発掘の方法論の確立,3)ケーススタディの実施を研究計画として挙げていた。 1)に関する研究は順調に進展している。SPLでは,製品間の共通性と相違性の認識やコア資産の再利用管理をフィーチャによって行い,またフィーチャの意味的な関係をフィーチャモデルとして記述し,プロダクトラインの全体像を把握する。XDDP4SPLでは,既存ソフトウェア資産の部分理解に基づくボトムアップのフィーチャモデルと,プロダクトラインやドメインの知識に基づくトップダウンのフィーチャモデルを構築するが,SPLへの移行にあたってはそれらを統合しなければならない。統合時には,各々のフィーチャモデルにおけるフィーチャ認識の齟齬を解決すべく,フィーチャの定義やフィーチャ間の関係を変更する必要が生じる。これらの変更はさらに,フィーチャとコア資産の間のトレーサビリティリンクの変更につながる。2012年度はフィーチャモデルに対する基本変更操作(生成,削除,改名,意味追加,意味削除)を定め,それら基本変更操作に伴うトレーサビリティリンクの変更手順を整理した。あとは整理された手順をケーススタディで実施し,その妥当性を評価するのみである。 2),3)に関しては遅延を生じている。本研究では,人工的な小題材ではなく,実際の商業製品相当の規模と複雑さを持つ題材によるケーススタディを目指している。ケーススタディとして研究室で開発している自律走行車の制御ソフトウェアを対象とすることを決めているが,その開発に要員をとられていること,ならびにその開発の遅延が2),3)の遅延の原因である。自律走行車の第一モデルはまもなく完成する予定であり,状況の好転については楽観視している。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は,まずは遅延を生じているケーススタディの実施に注力する。上述の通り,ケーススタディとしては自律走行車の制御ソフトウェアを対象とする。同制御ソフトウェアは,車両のごく基本的な制御を行う下層部(一般のコンピュータで喩えればBIOSにあたる部分),ミドルウェア部,自律走行等の高度な制御を行う上層部で構成されている。同車両は基本機能としてGPSによる自律走行を行う。今後,平坦な整地上での走行のみならず,夜間走行,不整地走行,傾斜地走行,林間走行,雪上走行等のミッションを実施することを計画している。それらのミッションを実施するべく,加速度センサ,レーザレンジファインダやステレオカメラ等のデバイスを追加し,機能の追加や変更を繰り返す。この派生開発を繰り返しSPLへの移行を実現し,XDDP4SPLのケーススタディ実施を行う。 制御ソフトウェアの下層部と上層部は新規に自作している部分であるためアーキテクチャ既知での派生開発となるが,ミドルウェア部については既存のものを使うためアーキテクチャ未知での派生開発となる。2012年度の計画にあがっていた,ボトムアップアーキテクチャ構築(アーキテクチャのリバースエンジニアリング)とコア資産発掘の方法論の確立に関する研究はミドルウェア部に対して適用する。 2012年度の交付申請時に,来年度の研究実施計画として挙げていたプロダクトライン開発の適用範囲拡大のためのコア資産スコーピング手法の確立についても,計画通り2013年度に着手する。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年度に残った額はわずか4,098円である。無駄に消耗品等を購入して残額0になるまで支出することを嫌った結果,これだけの金額が余った。 2013年度の予算使用計画は,2012年度に提出した交付申請書から変更はなく,1,300千円に2012年度の上記残額を加えたものとしている。すなわち,交付申請書の記載通り,物品費に100千円,旅費に900千円,人件費・謝金に100千円,その他に200千円を支出し,今回の残額4,098円は「その他の支出」に加えるものとする。
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