研究課題/領域番号 |
24500042
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中西 恒夫 九州大学, システム情報科学研究科(研究院, 准教授 (70311785)
|
キーワード | プロダクトライン / 派生開発 / 導入障壁 / 不確定性 |
研究概要 |
今日の現場における組込みシステム開発のほとんどは派生製品の開発であり,新規に製品を開発することは稀である。ソフトウェア資産の戦略的再利用なく,派生製品の開発における品質,コスト,工期の改善は望めない。 組込みシステム産業界では,派生製品開発のプロセスとしてXDDP(eXtreme Derivative Development Process)が注目され,自動車業界や半導体製造業界などでの適用事例が報告されている。XDDPでは,派生製品の開発にあたって,既存製品に対する追加・変更部分に焦点をあてて,追加/変更部に限った要求仕様記述,設計,実装,ならびにそれらに必要な既存製品に対するリバースエンジニアリングを行う。XDDPは基本的は局所的再利用を行う戦術であり,長期的な製品展開像を見据えて再利用資産を進めていくソフトウェアプロダクトライン(SPL: Software Product Line)のような大域的再利用戦略ではない。 本研究ではすでに,導入障壁の低いXDDPによる派生開発を繰り返し,既存資産の部分理解を重ね,既存資産からのコア資産発掘を進め,XDDPによる派生開発→SPLの部分的導入→SPLの全体的導入に至るプロセス「XDDP4SPL」,ならびにその移行管理の方法論を提案している。 2013年度は自律走行車制御ソフトウェアの派生開発を対象としたケーススタディの実施を最優先の研究計画としていた。しかしながら,研究室の学生指導業務の負担増によりまとまった開発時間を割けず,計画の実施に大幅な遅延を生じている。一方,同ケーススタディの一環として行った電動シリンダ駆動回路の開発の中で,開発中の意思決定に係る不確実性を扱う「不確実性フレームワーク」を着想するに至った。同フレームワークは派生開発からSPLへの移行過程における意思決定においても適用可能である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究計画では,ボトムアップアーキテクチャ構築ならびにコア資産発掘の方法論の確立,ならびにケーススタディの実施が前年度からの積み残しの研究課題となっている。また,今年度の課題としてはSPLの適用範囲拡大のためのコア資産スコーピング手法があがっている。本研究計画では,研究課題の性格から,人工的な小題材ではなく,実際の商業製品に劣らない規模と複雑さを持つ題材によるケーススタディを目指している。 ケーススタディに関して大幅な進捗の遅れを生じている。研究室の学生指導業務の負担増によりまとまった開発時間を割けなかったこと,研究代表者の見通しの甘さにより開発を担う学生を戦力化できなかったことがその理由である。
|
今後の研究の推進方策 |
2014年度は大幅な遅延を生じているケーススタディの実施に注力する。本研究における提案の妥当性を検証するうえでケーススタディの実施は避けて通れない。 提案者は今年度より所属大学が九州大学から福岡大学に変わっており,研究指導の責のある学生の数は減ったものの,ケーススタディ中の開発活動に携わる学生のほとんどは院生ではなく学部生となっておりそれほどの開発力を期待できない。そのため,ケーススタディの規模を提案者が学務の合間に個人的に実施できる規模に縮小し,自律走行車の制御ソフトウェアを対象とすることは変わらないが,その一部機構をケーススタディの対象とすることにする。 一方,2013年度にケーススタディを実施する中で,当初の研究計画段階では想定していなかったことであるが,開発中の意思決定に係る不確実性とそれに対する対策を一般的に扱う「不確実性フレームワーク」を着想するに至った。XDDPからSPLへの移行,ならびにSPLにおけるコア資産スコーピングも結局,不確実性の中での意思決定であり,同フレームワークをXDDPからSPLへの移行プロセスの中に導入していくことが期待できる。2014年度は不確実性フレームワークのXDDPからSPLへの移行プロセスへの適用を新たに研究テーマとして掲げる。
|