研究課題/領域番号 |
24500070
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
福本 聡 首都大学東京, システムデザイン研究科, 教授 (50247590)
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研究分担者 |
新井 雅之 日本大学, 生産工学部, 助教 (10336521)
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キーワード | 高電磁環境 / 故障モデル / ディペンダブルコンピューティング / 組み込み自己テスト / 周期的な多重故障 / DC-DC コンバータ |
研究概要 |
本研究課題の目的は,高電磁環境下で論理回路に発生する過渡故障を,ディペンダブルコンピューティングにおける新しい故障モデルとして捉え,その同時多重性や周期性といった特徴を踏まえた順序回路の冗長構成手法を構築することである.25年度は,24年度の研究結果を基に,抜本的に故障モデルとその対策を再検討した.故障モデルからくる制約を若干緩和して,回路方式として実現可能な高信頼化手法を検討した.具体的には,DC-DCコンバータのスイッチング時に発生する過渡ノイズに着目し,FPGAによるディジタル制御回路を前提とした高信頼化を取り扱った.FPGAへの故障挿入実験に基づいて故障モデルを決定し,それに対する高信頼化手法を提案した.さらに,提案手法を適用した制御回路を設計し,デジタル・アナログ混在の電子回路シミュレーションによってその有効性を示した.ノイズが入力信号線に混入することから,DC-DCコンバータにおいて主回路と直接電気的に接続する制御回路のサンプリング時に誤りが挿入されることを想定した.基本的なアイディアは,主回路の電圧値をサンプリングするタイミングを,過渡ノイズの大きいパルス波の立ち上りと立ち下りからできるだけ遠ざけ,誤動作を回避するというものである.サンプリング時点が一定周期ではなくなるので,電力変換回路の制御に何らかの影響があるものと考えられるが,完全な無制御状態に陥ることを回避するための耐故障手法となることが期待できる.この提案手法を適応した制御回路をFPGA実装することを前提に設計し,主回路と合わせた電源回路としてシミュレーションによって耐故障性を評価した.この研究成果をまとめた論文は,IEEJ Transactions on Electrical and Electronic Engineering に採録決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,本研究課題のテーマのひとつとして計画していた,レジスタ多重化による冗長回路構成と非同期設計手法について,取り扱う故障モデルとの適合性の点で本質的な問題があることが24年度に明らかになった.特に,レジスタ多重化による冗長回路構成では,同時多重故障に耐性を持たせるためにはどうしても順序回路内の記憶素子のデータを外部に退避する必要があり,単独の回路構成方式として成立させることが困難であった.そこで,25年度には,故障モデルからくる制約を若干緩和して,回路方式として実現可能な高信頼化手法を検討した.そのため,当初の計画に掲げた課題という意味ではその半分しか達成されていない.しかし,故障モデルを再検討して研究した,DC-DCコンバータのスイッチング時に発生する過渡ノイズを回避するディジタル制御回路の高信頼化手法については順調に成果が得られつつある.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策として,25年度に成果が得られた DC-DCコンバータのスイッチングノイズの影響を回避するディジタル制御回路の知見を基に,より一般的な制御回路に関する高信頼化手法を検討する.ノイズの影響を回避する手法を適用したディペンダブル制御回路を設計して,シミュレーションによってその有効性を示す.シミュレータには,25年度に購入し,デジタル・アナログ混在シミュレーションで実績があるSIMetrix/SIMPLISを用いる. また,24 年度に検討した,組み込み自己テストによって周期的な多重故障の影響を計測して回避する高信頼化手法について再び取り組む.提案している故障回避方法の要諦は,ノイズの継続期間分布の上限値を正しく特定することにある.しかしながら,これは実際には簡単ではない.観測されるノイズの継続期間は確率的であり,フリップフロップの入力信号線に重畳するノイズのうち,最も継続期間長いものでも常にその上限値に達するとは限らないからである.これは,観測回数が少ない場合には,分布の上限値を不正に小さく見積る可能性があることを意味している.また,この観測値についてさらに過小評価をもたらすのが故障マスク,すなわち,ノイズが継続しているにもかかわらず過渡故障が検出されずにマスクされる現象である.実際のノイズ継続期間分布の上限を特定することが困難である以上,テストによる観測値の最大値を基に通常稼働中のクロック無効化期間を設定することが現実的であると考えられる.具体的には,オンラインテストで特定した上限推定値に,適当な安全係数を掛けることで補正した値を用いる.
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度には,抜本的に故障モデルとその対策を再検討し,回路方式として実現可能な高信頼化手法を検討した.そのため,シミュレーションに要する時間と労力が予定よりも増加し,当初,共同研究者が予定していた国際会議での発表機会が先送りになった.次年度使用額が生じたのはそのためである. 26年度では,DC-DCコンバータのスイッチングノイズの影響を回避するディジタル制御回路の手法を発展させ,より一般的な制御回路に関する高信頼化手法を検討する.また,組み込み自己テストによって周期的な多重故障の影響を計測して回避する高信頼化手法について再び取り組む.これらの研究を含め,3年間の成果を3件程度の論文としてまとめる予定であり,それらの別刷り代金などに予算を充てる.その他の使用予定としては,主として国際会議での成果発表のための旅費及び参加費に配当する計画である.
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