研究課題/領域番号 |
24500078
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
長谷川 剛 大阪大学, サイバーメディアセンター, 准教授 (00294009)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 無線LAN / TCP / 消費電力 / 輻輳制御 / IEEE802.11 |
研究概要 |
ネットワーク機器の省電力に関して議論を行う場合においては、省電力効果とネットワーク性能間のトレードオフを考慮する必要がある。すなわち、消費電力の削減に効果のある要因を明らかにし、その要因がどの程度ネットワーク性能を低下させるかを知ることが重要である。 そこで本年度の研究では、無線LAN においてTCPデータ転送を行う、単一の無線端末が消費する電力のモデル化手法を提案し、消費電力を低減する転送手法について検討した。提案モデルはMACレベルのモデルとTCPレベルのモデルの組合せによって実現した。MACレベルのモデルにおいては、CSMA/CAのフレーム交換に基づく消費電力モデルを構築した。TCPレベルにおいては、TCPの動作解析に基づいて消費電力モデルを構築した。構築した消費電力モデルに基づいた数値解析によって、無線端末から有線ネットワーク上にあるホストに対してTCP データ転送を行った場合の消費電力を解析的に導出可能となる。数値解析の結果から、パケットの送受信がない区間において理想的にスリープした場合とそうでない場合を比較することで、消費電力を削減するうえで効果的な要因を明らかにした。 さらに、無線LAN 環境におけるTCPデータ転送の省電力化を行うためにSCTPトンネリングを提案した。SCTPトンネリングは、複数のTCPフローを無線端末とアクセスポイント間に確立した1本のSCTPアソシエーションに集約する。そして、SCTPトンネリングは集約されたTCPフローのパケットをバースト的に転送することによって状態遷移回数を削減し、スリープによる省電力効果を高める。また、提案方式の省電力効果を評価するために、SCTPトンネリングの消費電力モデルを構築する。その消費電力モデルに基づいた消費電力解析により、提案方式が消費電力を最大70%程度削減できることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度においては、無線アクセスネットワークとして現在最も多く用いられているIEEE802.11無線LAN環境 を前提とし、TCPコネクションが1本だけ設定される環境において、消費電力を低減するためのTCP輻輳制御機構 として、TCP輻輳制御機構の準標準的(ほとんどのOSにおいて実装されている)な挙動である遅延ACK (Delayed AC K)機構を応用し、バースト転送を実現することを目的としていたが、研究実績に示したように、この目的を達成する手法の提案、評価を行ったことから、おおむね順調に進展していると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
24年度に提案したTCP輻輳制御機構の省電力効果は、TCPコネクションが無線クライアントから1本だけ設定されている場合を前提として設計される。しかし、実際の環境においては、複数のTCPコネクションが1台の無線クライアントから設定される。この時、各TCPコネクションのスループットや往復遅延時間は様々であるため、課題1による提案手法をそれぞれのコネクションに適用すると、アクティブ/スリープ時間の同期が取れず、省電力効果が著しく低減することが予想される。 そこで、平成25年度においては、このような状況においても高い省電力効果を維持するための、無線ネットワーク区間におけるトランスポート機構を提案する。具体的には、無線クライアントと無線アクセスポイント間の無線ネットワーク区間において、Stream ControlTransport Protocol (SCTP)を用いたトンネリングを行い、複数TCPコネクションのパケット送受信タイミングを制御する。SCTPはRFCによって標準化されたプロトコルであり、複数のセッションを1つのコネクションを使って転送する機能を持つ。本課題においてはこの機能を利用し、複数のTCPコネクションを1つのSCTPコネクションでトンネルし、無線ネットワーク区間におけるデータ転送を行う。これにより、環境の異なる複数TCPコネクションが存在する場合においても、無線ネットワーク区間におけるデータ転送を一括して制御することが可能となる。 本課題においては、課題1におけるTCP輻輳制御機構の省電力化に関する知見を最大限に活かすことを考慮する。すなわち、SCTPコネクションにおいてはTCP輻輳制御機構と同様の輻輳制御を行うことを前提とする。これは、無線ネットワークに複数の無線クライアントが存在する場合の、無線クライアント間のスループット公平性を担保するためにも極めて重要である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度においては、上述の提案手法の数学的解析による評価、シミュレーションおよび実装実験による検証を行うための可搬型コンピュータ及びサーバマシン等を購入する予定である。また、研究成果の発表のために国内外の研究会、国際会議への出席のための旅費や、英語論文誌への論文投稿のための英文添削なども予定している。
|