無線メッシュ網において,ユーザが地域のイベントの様子などを移動しながら撮影し,映像をライブで網内にマルチキャスト配信するケースを想定して,送信元端末の移動をサポートする新たなマルチキャストルーティングを提案した.従来の代表的な手法であるPIM-SMを適用すると基本的には網内のすべてのメッシュノードがPIM-SMによるレイヤ3マルチキャスト機能をもつ必要があり,トータルの機器コストが増大する.本研究では網を複数のサブネットに分割して各サブネットでは代表ノード1台のみにPIM-SMとレイヤ2 VLANの機能を,他のメッシュノードにはレイヤ2VLAN機能のみを持たせ,サブネットを跨がるパケット送信はPIM-SMで,サブネット内のパケット送信はレイヤ2マルチキャストであるIGMP snoopingを用いることで網全体でレイヤ3マルチキャスト機能を持つメッシュノードの数を削減し機器コストを低減するシステムを提案した.本システムにおける各サブネットでの代表ノードの選択手法として,網全体での媒介中心性指標値から網の中心により近いノードを選択する手法を提案した.性能評価の結果,メッシュノード30台の網においてサブネットの数の15台とする条件でマルチキャスト木に沿った送信元・宛先端末間のホップ数特性は,平均値と90%値のそれぞれにおいて,全てのノードにPIM-SMの機能を持たせる場合と比べて最大でも15%程度の増加にとどまることが示された.同じ条件で,マルチキャスト配信レートを決定づける指標として,マルチキャスト木を構成するリンク上での最大トラフィック量を評価した結果,提案方式は従来のPIM-SMと比較して最大15%程度の増加にとどまることが示された.すなわち従来方式の性能を大きく損なわずにマルチキャスト機能を持つノード数を従来の約1/2に低減できるということを明らかにすることができた.
|