音響信号に情報を秘匿する電子透かし技術において,情報秘匿済み信号が変形を受けない場合は,完全な秘匿情報の抽出および完全な埋め込み前の原信号への復元が可能である一方,情報秘匿済み信号に対する変形処理が加わった場合でも,秘匿情報の一部が高い確率で検出可能である技術を実現することを研究の目的とした。 そのため,秘匿情報をリバーシブル秘匿情報と強耐性秘匿情報の二種類に分けて,前者を周波数領域における整数MDCT係数値の拡張の隙間に秘匿し,後者を拡張の時間周波数パターンに秘匿する手法を開発した。 コンピュータシミュレーションの結果,情報秘匿済み信号からリバーシブル秘匿情報は完全に検出でき,原音にも完全に復元できることを示した。また情報秘匿済み信号の音質劣化は,十分に小さいことが分かった。さらに,知覚符号化(MP3やAAC)による変形が,情報秘匿済み信号に加わった場合でも,強耐性秘匿情報が十分な検出率をもって検出できること,そしてそのような変形が加わった後でも,埋め込み前の原信号にある程度まで復元すること(セミリバーシブル復元)が実現できた。 この研究の過程において,符号化や雑音付加などの情報秘匿済み信号への攻撃(信号処理変形)をどの程度まで想定すべきなのかについて,変形処理後にどこまで原音の音質に近づけられるのかという観点から検討を行った。また,著作権管理等を目的とする強耐性電子透かし技術が満たすべき性能(秘匿情報量,攻撃(信号処理変形)耐性,情報秘匿済み信号の音質劣化)としての基準に関する検討を行った。
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