本課題は、日常的な動作の中から指や手を振って空中に文字を書く動作を検出し、その空間に書かれた見えない文字をコンピュータで認識する研究である。具体的には、モーションセンサ(加速度・角速度センサ)を常に携帯し、センサの時系列信号から筆記動作と非筆記動作の識別を行い、筆記動作の場合には文字種の識別を行う。また、同信号から文字を書いている人が誰であるかを識別したり、さらには登録した本人であるか否かを認証したりする。 まず、実環境下では体の揺れなど、筆記以外の加速度信号が混入する。これを除去するため、複数の加速度センサを用いて、ペン先・指先の加速度信号のみを検出する手法を検討した。次に、加速度信号のパワーの変化量を基準として手の動作区間を検出した。筆記面にあたる2次元の加速度信号より、フーリエ記述子特徴量を抽出し、サポートベクターマシンによってその動作が文字を書く動作か否かを識別した。それによって得られた筆記動作の加速度信号より、その文字種を認識する手法を検討した。3次元加速度ベクトルの時系列を特徴量に、隠れマルコフモデルを識別器に用い、空中のどの向きにでも筆記具をどのように持っても認識できる技術、類似文字の識別におけるペン先方向の加速度特徴の利用法、不特定筆記者の手書き文字認識において筆記具の角速度情報による加速度情報の補正法を開発した。また、様々な姿勢で楽に使えるように改良した。腕を肘掛けに置いた姿勢、あるいはぶらりと下した姿勢で小さく書いたときの文字認識精度を改善した。 筆記者識別の研究では、登録文字列と異なる文字列でも識別できる(例えば文字列「あいうえお」を登録して、文字列「かきくけこ」で識別する)、テキスト独立型の手法を構築した。登録時の文字列と識別時の文字列の識別精度への影響を調査し、筆記者の癖を学習するための効果の高い文字列(例えば5文字ならば「あうとなに」)を設計した。
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