H25年度までの研究結果より、耳介の三次元メッシュデータ元に算出した鏡面反射特徴量と、仰角方向の音像定位精度の相関分析により、全体として定位誤差が大きい耳介サンプルは反射成分が多い場所が耳介外部に分布する傾向にあり、一方で定位精度の高い耳介には特徴的な反射成分の分布が見られないことが分かった。これより「耳介における鏡面反射特徴量は定位精度が低い場合の耳介形状、ならびに耳介部位の説明変数である」という仮説を立て、その検証実験として、定位精度の低い耳介に「反射音の特徴的な分布を変化させる」、すなわち反射音が他の耳介部位に分散するようなアダプターを装着することで、音像定位精度が向上するのか、音像定位実験を実施した。16名の被験者を定位能力のレベルでグループ分けし、それぞれのグループについて、アダプター装着の有無と音像定位の精度について相関分析を実施した。その結果、定位能力の高い被験者についてはアダプター装着の影響は見られなかったが、定位能力が低い被験者グループについては、アダプターを装着することによって、定位の精度が向上する傾向が観測された。一方で、実験参加者耳介の三次元メッシュデータから算出した鏡面反射特徴量と定位精度についての明確な関係性を抽出することはできなかった。 これより、個人適応型の視聴覚提示技術の再現手法として、再現システムの要素である頭部伝達関数を個人に適応させる手法として、定位精度の劣化に影響する特徴的な反射音を分散させるような耳介アダプターを導入する手法の可能性が示唆された。
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