当該研究では,精密な香り射出コントロールが可能な嗅覚ディスプレイを用いて,微小な時間単位で香り濃度を変化させるような動的な香り提示に対する人間の嗅覚特性(特に順応特性)を計測することを目的としている.平成26年度の計画では,濃度変化するパルス射出の影響を主観評価および生理指標による客観評価の両面から確認するものであった. 主観的な香りの濃度差を求める際の最も基本的な方法が2つの香りパルスの感覚強度を比較する一対比較法である.本年度の研究により一対比較法において,香り刺激対の提示回数と2つのパルス間のインターバル時間の要因について実験を行い,初回の提示では先行刺激が後発刺激より強く感じること,インターバル時間が長いほど先行刺激の順応の影響が小さくなるという現象が見られ,この結果を学会発表した. また,香り刺激時の生理指標として,脳血流(fMRI,光トポグラフィ)や,心拍・脈波や皮膚電位などが用いられており,脈波,皮膚電位,光トポグラフィについて香り提示時の信号変化に関する実験を行った.その結果,皮膚電位の変化は安定的に得られるものの,脈波については個人差が大きく,光トポグラフィでは安定的に反応する部位を特定することが難しいことが明らかになった.またfMRIを用いた計測については先行研究のサーベイを行い論文にまとめて発表した. 3年間の研究期間を通して,1分程度順応せずに香りを感じさせる射出手法や,香りの一対比較におよぼす要因の分析など,香りのパルス射出に対する嗅覚順応・適応の基礎データが収集できた.
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