研究課題/領域番号 |
24500167
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
高木 理 北陸先端科学技術大学院大学, 知識科学研究科, 助教 (30388011)
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研究分担者 |
橋田 浩一 独立行政法人産業技術総合研究所, 知能システム研究部門, 研究員 (00357766)
村田 晃一郎 北里大学, 医学部, 講師 (40157780)
和泉 憲明 独立行政法人産業技術総合研究所, 知能システム研究部門, 研究員 (50293593)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 医療サービス / 質評価 / 質指標 / オントロジー / 医療情報システム / 形式手法 / グラフ表現上 / データ統合 |
研究概要 |
(1) 医療サービスの質評価の指標となる質指標の定義から医療DBに基づく値の計算にいたる一貫した枠組み(質指標定義・計算FW)の実現に向けて、形式性と可読性を兼ね備えた質指標の表現系QI-RSを開発した。ここで言う、形式性とは、質指標の定義から医療DBにおける計算に至るまで、その定義の内容を変えることなく作業が出来ることを意味する。一方、可読性は、読み手が負担無く正確に質指標の定義内容を理解できるような表現であることを意味する。一般に、表現系における形式性と可読性はトレードオフの関係にあり、これらを両立させた言語を開発することは、フォーマルアプローチ分野における基礎的課題の1つである。 (2) 医療サービスの質を評価するための指標(質指標)を得ようとするとき、最終的に知りたい指標と医療データベースに基づいて値が直接計算できる指標との間には大きなギャップが生じる。このギャップを軽減するための枠組みとして、医療サービス評価オントロジー(MSAO)を開発した。MSAOは、医療サービスの評価者による評価結果の表現パターン(MSADP)に基づいて設計される。質指標の設計者は、“早期の胃がん若年患者に対する治療のスキル”というような分かりやすいが医療DB上のデータから直接計算することが難しい評価項目に対して、その評価項目に対応する一連の質指標を、MSADPによって表現される一連の評価指標(想定値および実績値)を設計することにより、得ることが出来る。このとき、その一連の質指標を設計する際の語彙としてMSAOが用いられる。 (3) (1)の質指標表現系によって定義された質指標を、仮想汎用医療DBスキーマ上のクエリへと変換するための、質指標-クエリ変換システムを開発した。この変換システムにより、質指標の値を汎用医療DB上のデータに基づいて自動的に計算できるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のテーマは、複数の医療機関に渡る医療サービスの質を公平に比較するための質指標の表現法(QI-RS)と、その表現方に基づく質指標の定義・計算フレームワーク(QI-FW)の研究開発である。また、QI-FWを構築するために、A)マッピングシステム、B)質指標計算エンジン、C)質指標定義支援ツール、の3つの構成要素の研究開発が必要である。 初年度の研究によって、まずQI-RSを完成させることが出来た。このQI-RSは、質指標設計のための語彙として医療サービス評価オントロジーを持つ。この医療サービス評価オントロジーのプロトタイプも初年度の研究によって開発することが出来た。しかしながら、MSAOを発展させて、医療サービス評価を十分に遂行するための質指標の選択・設計手法をより確立させたものにしていく必要がある。 質指標計算エンジンに関しては、初年度の研究により、QI-RSによる質指標を(仮想上の)汎用医療DB上のクエリへと変換するシステムが開発された。これは、実質上の質指標計算エンジンと同等の働きを持つ。一方、汎用医療DBスキーマ上のクエリを、実際の病院内の医療DBスキーマ上のクエリへ変換するためのマッピングシステムの開発は未だ行われていない。また、質指標定義支援ツールに関しては、略記されたテキスト条件から完全なクエリ分を生成する技術の基礎理論の研究がなされたが、まだ実装に進める段階ではない。 上記のことを踏まえると、3年間で達成したいと考えていた最初の課題リストに対して、初年度で、およそ40~50%の課題が達成されたと考えられる。ただし、最初に考案された課題リストだけでなく、既存の論理では表現できない頻度に関する表現と論理体系の構築など、研究が進むにつれて生み出された新たな研究も、最終的な目標を達成するためには、遂行して行かなくてはならないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 初年度で構築した医療サービス評価オントロジー(MSAO)のプロトタイプを、実用面・理論面の両方の面で改良していく必要がある。そのため、北里大学において、MSAOに関する検討会を開催し、実際の医療現場で働く医療スタッフへのインタビューを通じて、MSAOの実用面での改良を行う。また、理論面では、医療者の性格や経験に基づくコンピテンシーのパターンをモデル化し、さらに、医療者のコンピテンシーパターンに応じて、患者がどのようなアウトカムを得るのかを示す、患者アウトカムパターンのモデル化を行う。これらのパターンのモデル化と、それぞれのパターンの対応関係を設計することによって、最良サービスの質評価にとって有用な質指標を、より正確に導き出せるようになることが期待できる。 (2) 仮想汎用医療DBスキーマと個々の医療DBスキーマとのマッピングを定義するためのマッピング言語の研究開発を行う。このマッピング言語によって、実際の医療DBのスキーマを熟知している現場のシステムエンジニアに大きな負担をかけさせることなく、仮想汎用医療DBスキーマと個々の医療DBスキーマとの対応関係を定義させることが可能になる。そして、このマッピング言語によって定義される対応関係に基づいて、仮想汎用医療DBスキーマ上のクエリを個々の医療DBスキーマ上のクエリへと変換するマッピングシステムも開発する。このシステムと、初年度に開発した質指標-クエリ変換システムを組み合わせることによって、質指標の値を自動的に計算するシステムを完成させる。 (3) 現在行っている、クエリ自動補完・生成技術の研究に加えて、頻度や尤度を表現するための表現手法と論理体系の研究開発を行う。これらの研究によって、従来では定義できなかった、より柔軟な条件文による質指標を、シンプルな条件文を用いて容易に定義できるようになることが期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、これまで以上に北里大学への出張の機会が増えることが予想される。また、研究代表者あるいは研究分担者による海外における研究発表の機会も1回ないし2回程度はあるものと想定される。 質指標の値を自動的に計算するための、質指標-クエリ変換システムやマッピングシステムを開発するための環境と、開発されたシステムを実験的に稼働させるための、実験用の医療DBを構築する必要がある。そのため、2台程度のデスクトップパソコンとノートパソコンの購入を想定している。 システムの開発と、頻度や尤度の表現手法や論理体系の研究開発のために、システム開発関係、論理額関係、統計学関係の書籍を購入することを予定している。 次年度において、2~3編程度のジャーナルペーパーを作成・出版することを目指す。そのため、掲載量や論文の英文の改訂に関する費用が発生することが予想される。 なお、初年度の3月に研究代表者と研究分担者である高木、橋田、和泉による研究打合せを行うことが予定されていたが、その打合せがキャンセルになったため、旅費のために残しておいた金額を繰り越すことにした。
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